天満つる明けの明星を君に②
また夢を見ていた。

どこか寒い場所――ふたり炬燵に入り、ひとつの蜜柑を分け合って食べ、しんしんと降る雪を見ながら他愛ない話をしていた…と思う。

お揃いの色違いの半纏を着て、ふたりで台所に立ち、自分が作ったことのない料理を作り、それを酒を飲みながら食べた後、広い温泉のような風呂に入って温もり、ひとつの床に入って…そして――


「あ、雛ちゃん起きた?」


声をかけられた雛乃は夢現に目を開けて、至近距離で顔を覗き込んでいる天満と目が合い、飛び起きた。

一体何がなんだか…自分は天満を看病していたはずなのに、きちんと違う床が敷かれてそこに寝ていたことに驚愕しつつ、目を白黒させた。


「え…私…どういう…」


「ずっと寝てたなかったんでしょ?僕の調子が良くなったから緊張の糸が切れたんだね。よく寝てた」


「は、恥ずかしい…!すぐ起きます!」


「うん、ゆっくりでいいけど、起きたら一緒にご飯を食べよう。お腹空いた気がしない?」


――物心つく前から人と同じように三食しっかり食べている天満には‟腹が空いた気がする”という感覚がある。

それは兄弟皆同じで、首を傾げる雛乃に笑いかけて立ち上がると、大きく伸びをした。


「百鬼夜行前に間に合って良かった。みんなで食べた方が美味しいもんね」


「天満、そなたは今から私の診療があるのだよ」


いつの間にか呆れ顔で出入り口に立っていた晴明に満面の笑みを向けた天満は、晴明の尽力なしでは自分はこうして元気でいられなかったかもしれないことに感謝して頭を下げた。


「お祖父様、ありがとうございます」


「私の孫に何かあっては一大事。さあ座りなさい、すぐ済むからね」


ささっと身なりを整えた雛乃が畏まって正座するのを見た晴明、にっこり。


「ついでにそなたも診てあげよう。さあ、座りなさい」


「え…」


「いいからいいから」


押しの強さは祖父も同じだった。
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