天満つる明けの明星を君に②
診察の結果、雛乃はただの睡眠不足で、天満は元気ではあったが未だ身体を動かす時に痛みが走り、頬についた毒の痕が火傷のように残っていて、皆を心配させた。


「ああそれは治るよ。鬼脚の子が使っていた薬草が分かった故、私が煎じて傷口に塗ってあるからね。しばらくの間はこれを傷口に塗りなさい」


「お祖父様、本当にありがとうございます」


「ちなみに本当に十六夜たちには知らせなくともいいのだね?」


――天満たちの父母である十六夜と息吹は旅に出ていてどこに居るのか分からないが、連絡を取ろうと思えば取れる。

だがこれを知られればすぐに戻って来るだろうし、すぐに制裁…つまり吉祥を殺すだろう。

もしかしたら鬼脚自体を潰すかもしれない――あの父は普段血が凍っているのだろうかと思うほど冷徹なくせに、頭に血が上ると烈火の如く怒って家族を傷つけた者を完膚なきまでに叩きのめすのだ。


「いや、それはやめておいて下さい。この通り僕は元気だし、雛ちゃんが看病してくれますから。ね、雛ちゃん」


「は、はい!」


「へえ」


にやにやと含み笑いを浮かべて立ち上がった晴明は、お大事にと天満に声をかけて部屋を出て行った。

やっとふたりきりになれた天満は、居住まいを正して雛乃に向き直り、疑問に思っていたことを率直に問うた。


「ずっと夢現にあれは現実だったのかなって考えてたんだけど…僕、雛ちゃんに告白したよね?」


「え!?あの…はい…」


「雛ちゃんはそれに応えてくれたよね?」


「その……はい…」


心底気恥ずかしそうに俯く雛乃のつむじをじいっと見つめた天満は――もう遠慮はしないと決めた。

だが…‟君は雛菊が転生した存在なんだよ”と打ち明けて、はいそうですかと受け入れるだろうか?

それならば打ち明けない方がいいのだろうか?


そこだけは考えがまとまらず、とりあえず雛乃を抱きしめてその温もりに触れた。

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