天満つる明けの明星を君に②
作戦会議を終えた芙蓉と柚葉は、次に雛乃を呼び出して一番狭い客間で膝を突き合わせていた。


「あの…一体何のご用…」


「あなた両想いになったんでしょう?だったら色々準備しなきゃと思って」


「準備?」


きょとんとしている雛乃が生娘であることは確認せずとも分かっていた。

ただ――どういうことが行われるのか、心構えはあるのか等々、教える義務があると何故かふたりは奮起していた。


「頭のてっぺんから爪の先まできれいにするの。ほらこれ、いい匂いがする石鹸だから、これで身体中を磨いておくといいわ」


手渡された石鹸はほのかな紅色で、匂うと花の香りがした。

だが何故自分が自分自身を手入れしなければならないのか――首を捻って考えていると、いつの間にか背後に回っていた芙蓉が突然胸を鷲掴みにしてきて、悲鳴。


「きゃ、きゃぁーっ!なななな、何するんですか!」


「うん、意外とあるわね!これなら天満さんもきっと大満足!」


「て、天様がなんで大満足!?」


「だって両想いになったら次はもうほら…一夜を共にするしかないでしょう?はっきり言ってしまうと、身体を重ね合うっていうやつよ。私たち、あなたに心の準備をしてもらいたくてあなたを呼び出したの」




……沈黙が訪れた。

頭の整理が追い付かず、口を開けたり閉めたりしている雛乃の手を、今度は柚葉が両手でぎゅっと握って身を乗り出した。


「その時が来ればきっと天満さんが色々導いてくれるだろうけど、雛乃さん…あなたその顔…天満さんとそういう風になるって想像してもなかった?」


「あ、あの……はい…でも天様目覚めたばかりで…」


「心身ともに屈強な一族だもの、多少身体が動かなくったって好いた娘とそうなれるならへっちゃらよ。さあほら、一から十まで…いえ、十以上まで教えてあげるからよく聞いて!」


目の据わった芙蓉と柚葉の夜の指導が始まった。
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