天満つる明けの明星を君に②
想いが通い合ったからといって、すぐに行動はできない。

雛菊を亡くしてからもう随分時が経ち、元々女に対して全く積極性のなかった天満にとっては、雛乃をいかに誘惑して一夜を共にするか…そんな計画などひとりで立てられるはずもなかった。

また雛乃も男の経験がなく、芙蓉たちに色々吹き込まれたけれども、だからといって手練手管の技を手にしたわけでもないし、引っ込み思案はすぐに治るものでもなかった。


陽が暮れて朔が百鬼夜行に出ると、雪男と輝夜たちは屋敷の番で、天満は暁が寝るまで遊び相手となって始終傍に居た。

まだ病人だから我が儘を言ってはいけないと両親にきつく言われていた暁はとても大人しく、天満を煩わせることがなくすぐに眠りについた。


「いつもこんなに素直だといいんだけど」


「そ…そうですね…」


――がちがち。

明らかに雛乃に意識されている天満は、それを嬉しいと思いつつも今一歩前に進むことができずに晴れた月夜を見上げていた。


「知ってる?鬼頭の直系って、こんな月夜に必ず産まれるんだ。だから僕らは月にちなんだ名前が多いんだけど…」


「ああ、それで天様のお名前も…。月の光で天を満たすっていう意味なんですよね?素敵…」


いい雰囲気になった、と思った。

天満たちの居る場所は皆が集う居間から離れた場所で、人気が無かった。

縁側に座っている雛乃との距離は、ほぼ無い。

無いけれど、多少解れた雰囲気だったものの、雛乃と目が合うと、またがちがちになってしまい、思わず吹き出してしまった。


「ちょっと天様…な…なんで笑ってるんですか…」


「いや、別に。可愛いなあと思って」


「!や、やめ、やめて下さいっ!こっち見ないで下さい!」


腕をぎゅうぎゅう押されて距離を取ろうとする雛乃の力に押し負けず、へにゃへにゃ笑いながら見るのをやめなかった。
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