天満つる明けの明星を君に②
庭で胸を押さえてうずくまっている雛乃を目を光らせて見ている人影がふたつ、在った。

雛乃と話す機会を窺っていた‟彼女”たちは、気配を押し殺して近付き、雛乃の前に立ってにこにこ微笑んでいた。


「!?あ、あの…!?」


「あなたが雛乃さんよね?私たちここに住んでいる者なの。自己紹介してもいいかしら」


きれいに吊った切れ長の暁と同じ色の目をした絶世の美女に話しかけられて固まった雛乃は、隣でやわらかく微笑んでいる可憐な女から手を差し伸べられておずおずと立ち上がった。


「私はここの当主の朔の妻よ、芙蓉と言うの」


「私は鬼灯様の…輝夜様の妻です。柚葉と申します」


ふたりに丁寧に頭を下げられた雛乃は、その位の高さに怖じ気づいて顔を上げられず、深々と頭を下げたまま同じように自己紹介をした。


「わ、私は…ええと…雛乃と申します。出自は遠野でございます。ぽんちゃんの…狐狸の幼馴染で…」


「朔から聞いたから知ってるわ。ねえ、私たちとお喋りしない?ここで何していたの?」


動悸がするからうずくまっていた、と話すのはなんだか恥ずかしくて言葉に詰まっていると、すらりと障子が開いて三人が顔を上げた。


「あれ、芙蓉さんと柚葉さん…どうしたんですか?」


「天満さん?……ああそういうことだったのね?柚葉、私たち後にしましょう。おふたりともごゆっくり」


何故か忍び笑いを漏らした芙蓉が柚葉の手を引っ張って足早にその場を去ると、天満は首を傾げつつ雛乃を中へ促した。


「外は寒いですよ、中へどうぞ」


――天満の顔を見ると、また胸がざわついて動悸がしてきた。

見られないように簪を懐に直した雛乃は、促されるままに室内に戻った。

すれ違った時――天満は懐かしい香りを感じた気がして目を閉じた。


甘くていい香り――雛菊と同じ香りがする。

よもやもう、疑いようがなかった。
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