天満つる明けの明星を君に②
正直幽玄町に着くまで気が気ではなかった。

追手が放たれている可能性もあったし、着の身着のままだったし、ぽんの家族たちのことも気になったが――あんな身勝手な男の妻になるわけにはいかない。

第一男に触れられそうになっただけで寝込んでしまうのに――


「ひーなちゃんっ、あーそーぼ」


「暁様」


勝手に屋敷内をうろついてはいけないと部屋に籠もっていたが、暁が訪ねてくると障子を開けて庭に出た。

そこには――暁と共に天満の姿が在った。


「おはよっ。雛ちゃんまだお屋敷の中見てないでしょ?案内したげる」


雛乃が笑うと暁は鼻息荒くその手を取って天満を見上げた。


「天ちゃんも一緒に!」


「はいはい。その後は鍛錬の時間だから忘れないでね」


――まるで本当の親子のように見えた。

雛乃は暁に案内してもらいながら、後ろからついて来ている天満をちらりと振り返った。


「とっても仲良しなんですね」


「そうだよっ、天ちゃんといつも一緒なの。天ちゃんは色々教えてくれるんだよ。私ね、天ちゃんと同じになりたくて刀を二本持ちたくて…」


ぺらぺらと饒舌に話している暁の明るくて高く可愛い声色に聞き惚れながら歩いていると、長い長い廊下の先にある部屋から雪男が顔を出した。


「主さまから話があるからちょっとこっちに来てくれ」


「父様から?なんだろお、雛ちゃん行こ」


きっと雛乃の今後の身の振り方についての話なのだろう。

働き口を見つけることなんて朔や雪男からすれば数時間で手配できるが、雛乃が雛菊の転生した存在だと知っている以上、すぐ手放すようなことはしないはず。

もしそうなったら――


「不安になることはないですよ。僕がついていますから」


「は、はい」


天満の凛々しい表情に暁と雛乃、うっとり。
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