天満つる明けの明星を君に②
「一応希望を訊いておきたい。どんな仕事ができる?それによって紹介する場所も変わるが」


「わ、私は……私は…」


朔の眼前に座った雛乃は緊張のあまり言葉を詰まらせていた。

その圧倒的な美貌と、聞いているだけで頭がぼうっとしてしまう低い声色――圧倒的な存在感にまごついていると、暁がぎゅっと手を握ってにっこり笑った。

それでかなり緊張が和らいだ雛乃は、皆の視線を一心に浴びながらも、なんとか声を振り絞った。


「りょ、料理はできます。お掃除もできます。整理整頓も得意です。ですが…」


言葉を切った雛乃は、遠野での出来事が脳裏をよぎって身震いすると、平身低頭して畳に額を擦りつけた。


「どうか一歩も外に出ないような場所で働かせて下さい。お願いします…!」


付きまとっているという鬼脚の男がよほど恐怖なのか、雛乃の悲鳴のような懇願を聞いた朔が雪男と顔を見合わせると、そこで天満が口を開いた。


「うちで預かりましょう」


「うちで…というと?詳しく」


朔に促された天満は、ずっと黙って微笑んでいる輝夜の隣で腕を組んで眼前の雛乃と暁を交互に見た。


「暁がよく懐いています。僕は鍛錬系は教えてやれますが、今後暁が成長する過程で教えてやれないことも増えるでしょう。暁付きの世話役として、どうでしょうか」


天満がそうして口出ししてくることは滅多になく、朔も雛乃の今後についてはどう引き留めようか考えているところだった。

そうやって天満が案を出すと、暁は目を輝かせて雛乃の腕にくっついて顔を上げさせた。


「父様そうしようよ!私が雛ちゃんを守ってあげるから大丈夫!」


「いやいや、君を守るのは僕だから、僕の担当ということで」


「駄目!雛ちゃんは私の!」


――前世で三人は親子だった。

その親子が揃い、目の前で繰り広げられる妙な言い争いを皆が微笑ましく見守っていた。


「雛乃はどうだ」


「!私は…そうして頂けるならとても助かります。働かせて下さい…!」


「よし、決まりだな」


雛乃の働き口が、決まった。
< 40 / 213 >

この作品をシェア

pagetop