天満つる明けの明星を君に②
朔との対面を終えた雛乃は、襖を開けて廊下に出ると、崩れ落ちるように座り込んだ。

雛乃を待っていたぽんは、青白い顔をしている雛乃の膝に両手を据えて身を乗り出して顔を覗き込んだ。


「雛、どうなった!?」


「ぽんちゃん…私ね、ここで働けることになったの!」


「え!?お前そりゃあ…最高じゃねえか!」


――この屋敷はもうずっと雪男と朧が仕切っていた。

機密情報が多く集まるため、外部から働く者を募ることはなく、ここで働けるということは最高の名誉。

ぽん自身小間使いとして働かせてもらっているが、同族の長からの口添えで百鬼候補として侍っているだけ。


「暁様付きになったの。だからここから出なくていいの。ぽんちゃん、ありがとう!」


「おらは何もしてねえし、お嬢付きなのか!?すげえなあお前!」


ふたりきゃっきゃと喜んでいる脇を天満が笑みながら通り過ぎると、雛乃はその細くしなやかな背中にありったけの感謝を込めて声をかけた。


「天様、ありがとうございます!私、一生懸命働きます!」


「うん、僕も常に暁の傍に居るから必然的に君と長い時間を過ごすことになるし、仲良くしよう」


「は、はい」


天満が去った後、ぽんは見たことのない表情をしている雛乃の顔をまた覗き込んだ。


「雛、お前熱があるのか?顔が赤いぞ?」


「!そ、そう?そう言えばちょっと熱いかも…でも大丈夫」


「お嬢から目を離すんじゃねえぞ、天様の言うことをよく聞いて…」


「ぽんちゃんの心配性」


「そりゃあ心配するってもんよ!お前はおらの妹だからな」


「うん」


暁はまだ部屋から出て来ていない。

雛乃はその場で正座して暁が出てくるのを待った。

誠心誠意仕える――

燃えていた。
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