目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「私ね、あるデータを持っているの」

その声の響きには不穏な何かがあった。
例えるなら、テロリストが自爆テロを画策するような感じの。
でも「データ」と言われても私には何のことだか……。
……待って?
これって、三国さんが言っていた案件と関係があるんじゃないの?
偶然かもしれないけど、時期が被りすぎている!!

「それは医薬研究部の……?」

全くわからないけど、カマをかけてみる。
聞いたことのある言葉を並べただけだけど。

「なんだ、知ってるの?案外お利口さんね?」

いちいちムカつく。
彼女、人をイライラさせる天才かもしれない。
だけど、蓮司さんの会社に関わる重大な何かを彼女が握っている。
そのことだけは突き止めた!
後は、このことを蓮司さんか三国さんに……。

「このデータを私が持っていることを誰かに言ったら、即、他社に渡すわよ」

「た、他社に?」

どうして他社に??
無知って恥ずかしい……データを他社に渡してどうなるっていうの?
私の動揺を何かと勘違いしたのか、彼女はご丁寧に説明してくれた。

「ふふ、一色製薬の新薬のデータ。高く買ってくれる会社は多いのよ?これが他社に渡ると、一色製薬の損失は計り知れないわ!」

「大変……」

……本当に大変だわ。
きっと研究部が開発した新薬のデータを何らかの方法で盗み出したんだ。
三国さんがあんなに慌てるのがわかるわ。
これを放っておけば、蓮司さんの会社も大変なことに……。
もう、どうしたらいいの!?

「でしょう?でもね、奥様にならこのデータ、渡してもいいと思っているの」
< 256 / 285 >

この作品をシェア

pagetop