目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
「昨日の昼頃だ。百合ちゃんが看取ったらしいよ」

「百合……」

その呟きとともに、俺の中には鮮やかに昔日が甦った。
駅から、公園を抜けて、細い坂道を登りきりまっすぐ進む。
すると、突き当たりに白い壁に囲まれた平屋の可愛い家がある。
そこには優しい初老の男性と、制服を着た可愛らしい女の子が住んでいて、いつ訪ねても笑顔で迎えてくれる……。

「そんな、バカな……」

「うん。早過ぎる……百合ちゃんも、大学、もうすぐ卒業だったのにな。これから一人でどうするんだか」

「一人……」

母親についで父親を亡くし、あの子はどんな思いでいるだろう。
胸が痛い。
教授が亡くなったことも、百合が1人になってしまうことも、考えれば考えるほど胸が痛んだ。
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