目覚めると、見知らぬ夫に溺愛されていました。
ワイングラスの縁をなぞりながら、笙子は上目遣いでこちらを見た。
どうしてこの女をパートナーにしようと思ったのか、今となってはさっぱりわからない。
その仕草も、顔も、表情も、言葉も、何もかもがうすら寒い演技に見える。
さっきの言葉にしてもそうだ。
「そろそろ社長夫人にしてくれてもいいんじゃない?」なんて、逆プロポーズにしては愛も何もあったもんじゃない……。
そうか……そうだな。
全ては俺が望んだことだ、笙子だけが悪いんじゃなくて、一番の問題は自分だったんだ。

「申し訳ないが、その話は無かったことにしてくれ」

「……どういうこと?」

「君と結婚することはない」

「……何で?」

冷静に言ったが、笙子の唇は震えている。
目も笑っていない。

「君は、陰で女性社員にとんでもない嫌がらせをしていたそうだな?」

「そんなこと……三国、三国日菜子ね!?あの女の言うことを信じるの?私より!?」

笙子は美しい顔を歪め叫んだ。
ラウンジの客が一斉にこちらを見るくらいの音量だ。
もう少しボリュームを落とせ、といっても聞かないだろうな。
そう思い俺は嗜めなかった。
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