綴る本
 仰向けにしたルージュの泣き腫らしている顔があった。瞳からは涙が耐えず溢れてきている。
 その姿に何故か罪悪感の波がユラの心を煽った。
「ど、どうかしたか……? 怪我でもさせたか?」
 ユラの言葉にウルウルと濡れた瞳で見つめ、ルージュは可愛らしく小さく首を降った。
 訳が分からずどうしたらいいのか悩んでからユラはユマリスに顔を向けたら、仰天したような表情を顔一面に湛えていた。水色の髪と同色の瞳は珍妙なものを見るような眼で瞬きをしている。
「ユマリスとかいう女、どうして泣いてるんだ?」
「さ、さあ? 私にもわからないよ。ルージュが泣いてるなんて初めて見たんだからさ」
 ユマリスは狼狽えるように言ってから助けを求めるように振り返ってヘンズを見やった。渋い面持ちでこちらを見にくそうにヘンズがしている。
「ヘンズ、その顔……あんたなんか知ってるんでしょ?」
「ん……まあ、な」
「どうして泣いてるのよ?」
 泣いているルージュだと満足に、いや、元来の性格からして問い掛けても突っぱねて無駄であろうから、ユマリスは矛先をヘンズに向け詰問したのだ。苛々した口調は自分がそのことを知らないのにヘンズが知っているのが癪に触るのだろう。
「確証はない。多分だが、負けたら……泣くようだ。前回俺と模擬戦闘して負けたら泣いてな。今回も同じらしいな」
「自分の獲物使ってしたんじゃないわよね?」
「刄の潰れた訓練用で手合わせしたから案ずるな。それに、前々から思っているんだがユマリス、部隊は違えど一応、俺は上司だぞ」 悲しいかな、一応と付けているあたり、ヘンズは自分でも上司としての威厳がないことがわかっているからなのだろう。
「もしかして……あんた達! ルージュを密かに権力を盾にして慰みものをしてるんじゃないの?」
「えっ? あんた達? 何故に俺にまで話が飛んでくるんだ! しかも慰みものってそんなことするわけ無いだろうが!」
 声を荒げて反論の意を唱えるアクール。
 対してユマリスはしれっと涼しげに言った。
「冗談もわからないなんてつまらない男ね、アンタって」
 絶句するアクールを横目に、ヘンズは話を戻した。
「ユラ、模擬戦闘は合格だ。ハーメリンスの兵士として君を迎えよう」
 朗々と話すヘンズの姿は以外にも様になっていた。
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