綴る本
 ハーメリンス城内部は高級感溢れる煌びやかな通路とは違い、程よく品の有る壁の装飾に、骨董品が随所随所に配置されているだけの王城としては質素なものだ。
 塵一つ見当たらない掃除の行き届いた通路をどしんどしんと形容しても遜色無い歩き方で、少し顔に皺が刻まれている老齢の男が今にも鬱憤を爆発させてもおかしくない雰囲気を撒き散らしていた。老齢のように見えるが、鎧越しに鍛え上げられた筋肉を見れば老齢と呼ぶにはまだ早いとさえ相手に印象付けるだろう。
「頑固共の意気地なしめらが。事態を全く理解しとらん。早急に対処しなければいかんというのに、やれあれだ、やれそれだ、等と言うだけ言って口八丁に問題を逸らすとはなんたることだ!」
 荒々しく息巻いて、男が忌々しそうに怒気の波を吐き捨てた。
 男に一定の間隔で後ろを付き添っている女性が短いスカートから覗く脚線美の色香を漂わせながら柳眉をしかめていた。一見、麗しい女性に見えるが辛辣な言葉がそうはさせなかった。
「バーク、あなたの声煩いわよ。何度も何度も同じ愚痴を言わないでくれるかしら。それに、あれは今に始まったことではないはずよ」
「レイミィー、貴様、今日の今朝に帰ってきたと思ったら何だ、その態度に服装。兵士の何たるかを分かっとらんのか」
「あなたの耳触る声を平時の間聞きたくないから放浪してただけじゃない。服装はどうでもいいことよ。いい加減その偏った考え無くしたらどうなの?」
 バークがギロリと鋭くレイミィーを睨み付けた。
 ふん、とレイミィーが鼻で笑い口元を歪める。
 二人の言い合い――言い争いは今に始まった訳ではない。事有るごとに揉め事を起こしたり、実力行使にでたりと犬猿の仲なのだ。 二人は仮にもハーメリンス国の軍団長とその補佐である。
 師団長より階級が高く、軍全体の意見や規律、統率を整え纏める立場でありながらこの国の中で一番それらに不適応な二人でもあった。
 幸か不幸か、この状態の恩恵なのか、そのお陰で二人以外に実力行使となる場合は皆無となっている。
 良い意味で見本、悪い意味で実例であった。
 火花を散らしているかのような錯覚させるほど睨み合いを続ける二人に、温和な声が掛けられた。
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