綴る本
「こらこらバークや、レイミィー、この場所で喧嘩をしてはならんぞ」
二人が声の方に顔を向けると、弧を描いた瞼で微笑みを見せているご老体の男性が佇んでいた。
白い顎髭を多く蓄え、それを触りながらご老体の男性は微笑みを絶やさず二人を見ている。
「サルディス軍団総帥、申し訳ありません。場所を弁えずにこのような不粋な行動をしてしまい」
レイミィーと睨み合いをしている時とは一転して、背筋を伸ばしてご老体の男性――サルディスに向き直り、バークは敬意を払って頭を下げた。
レイミィーもそれに倣った。
「ほっほっほ、バークや、畏まらなくともよいぞ。師弟の間柄じゃのだぞ、何時も通りで呼んでもいいんじゃ」
「そうですか。では、ルディ師匠」
「それでよいよい、バーク坊」
サルディスの優しさを含んだ呼び名を聞いたバークが慌てた。その隣ではレイミィーが肩を震わせながら押さえ切れず笑っている。「ば、バーク坊は止めてください。もうそのような呼称で呼ばれる歳は疾うに過ぎておりますので」「いやいや、わしにとってはいつになってもバーク坊はバーク坊じゃ」
「わ、わかりましたからそう何度も呼ばないで下さいよ」
顔を羞恥で赤らめたバークは必死に師匠サルディスに言い募った。サルディスが来る前の猛者の武人の雰囲気を纏っていた時とは違い、今のバークは形無しになっている。
隣ではやはりレイミィーが更に腹を捩りながら声を荒げて笑っていた。
「る、ルディ師匠。ここに居られるということは臨時の議会が終わったのですね。どうなりましたか?」
なんとかこの話題を逸らしたく、バークが早口に先刻まで自分も参加していた話を振った。あからさまな逸らし方を見る限り、自然に振る舞えないほど今に余裕がないようだ。
「バーク、聞きたくないから議会から出たのに結局聞くなんて矛盾してるわよ」
レイミィーの尤な正論だが小馬鹿にしたような言い方に、ついつい頭に血が昇るのを感じて、このままだと先程と同じ事態になってしまうと思い、バークは深く息を吸って吐いた。登っていく血がまた正常に流れ、気持ちに少しゆとりが出来る。
「臨時議会のことじゃが、わしの力及ばず駄目じゃった……すまんの」
二人が声の方に顔を向けると、弧を描いた瞼で微笑みを見せているご老体の男性が佇んでいた。
白い顎髭を多く蓄え、それを触りながらご老体の男性は微笑みを絶やさず二人を見ている。
「サルディス軍団総帥、申し訳ありません。場所を弁えずにこのような不粋な行動をしてしまい」
レイミィーと睨み合いをしている時とは一転して、背筋を伸ばしてご老体の男性――サルディスに向き直り、バークは敬意を払って頭を下げた。
レイミィーもそれに倣った。
「ほっほっほ、バークや、畏まらなくともよいぞ。師弟の間柄じゃのだぞ、何時も通りで呼んでもいいんじゃ」
「そうですか。では、ルディ師匠」
「それでよいよい、バーク坊」
サルディスの優しさを含んだ呼び名を聞いたバークが慌てた。その隣ではレイミィーが肩を震わせながら押さえ切れず笑っている。「ば、バーク坊は止めてください。もうそのような呼称で呼ばれる歳は疾うに過ぎておりますので」「いやいや、わしにとってはいつになってもバーク坊はバーク坊じゃ」
「わ、わかりましたからそう何度も呼ばないで下さいよ」
顔を羞恥で赤らめたバークは必死に師匠サルディスに言い募った。サルディスが来る前の猛者の武人の雰囲気を纏っていた時とは違い、今のバークは形無しになっている。
隣ではやはりレイミィーが更に腹を捩りながら声を荒げて笑っていた。
「る、ルディ師匠。ここに居られるということは臨時の議会が終わったのですね。どうなりましたか?」
なんとかこの話題を逸らしたく、バークが早口に先刻まで自分も参加していた話を振った。あからさまな逸らし方を見る限り、自然に振る舞えないほど今に余裕がないようだ。
「バーク、聞きたくないから議会から出たのに結局聞くなんて矛盾してるわよ」
レイミィーの尤な正論だが小馬鹿にしたような言い方に、ついつい頭に血が昇るのを感じて、このままだと先程と同じ事態になってしまうと思い、バークは深く息を吸って吐いた。登っていく血がまた正常に流れ、気持ちに少しゆとりが出来る。
「臨時議会のことじゃが、わしの力及ばず駄目じゃった……すまんの」