身代わり婚~偽装お見合いなのに御曹司に盲愛されています~
あっという間に1時間は過ぎ、薫子の父親の来訪の知らせに俺は立ち上がった。
高坂とともに現れたその人は、相変わらずの威厳と、当たり前のように着こなしている着物が妙にこの場に似つかわしくないような気がした。
「ご無沙汰しております」
俺が挨拶をすると、お弟子さんだろうか後ろにいた若い女性が頭を下げた。
「何の話かはわかるかな?」
応接セットのソファにゆっくりと座りながら、薫子の父である玄武さんは俺の顔を見た。
色々な人間と話してきた俺だったが、まったく感情が読み取れなかった。
「いえ」
玄武さんの前にゆっくりと腰を下ろし、俺も玄武さんと向き合った。
「薫子もなめられたものだな」
静かだか少しだけ怒りを含んだその物言いに、やはり薫子との結婚を断ったことが原因だろうと分かった。
「その件ですが、私は一度も薫子と結婚を約束した覚えはありませんが」
サラリと言った俺に玄武さんは、わかりやすいほど表情を歪めた。
「お前の祖父から、結婚しなければ社長にさせないと聞いているが、それでもいいのか?」
「その件でしたら解決済みです」
特に表情を変えない俺に玄武さんがイラつくのが、その場の空気でわかった。