愛され秘書の結婚事情
「……不惑の四十なんて、嘘っぱちだ」
ボソリと呟き、悠臣はようやくビルの中に入った。
だが玄関ロビーに足を踏み入れた直後、社内の空気が微妙にいつもと違うことに気付いた。
出勤して来た彼を見て、受付嬢が二人とも立ち上がった。いや、いつも立ち上がって迎えてくれるが、今日はその立ち方と表情が違っていた。
「桐矢常務。おはようございます」
二人の受付嬢のうち、勤続七年のベテランの女性が先に声を上げた。
もう一人の入社二年目の子も、先輩に続いて慌てて頭を下げる。
「出社されて早々に恐れ入ります。秘書室の小森室長からご伝言がございます」
「え。あ、そう」
悠臣は立ち止まり、受付カウンターの前に立った。