愛され秘書の結婚事情
「まず世の中の社長夫人などが、どのようなスキルを求められるのかをネットでリサーチしたのですが、非常に参考になる意見を複数見つけましたので、そこからリストを作成しました」
そう言って七緒は、テーブルの端に置いていたノートパソコンを開き、その画面を悠臣の方に向けた。
メモ帳アプリに箇条書きにされたリストは二十項目にも及び、悠臣はそれを見て目を丸くした。
「なになに……。家計運用のために、税金と経理の知識が必要。簿記と税理法について勉強? 急な来客にも慌てないよう、自宅を常に上質な状態に保つ。インテリアコーディネートの勉強が必要? ゲストをもてなすため、英国式アフタヌーンティーを学び、できれば紅茶マスターの資格を習得? 同様にワインの知識も深めるため、ワイン講座を受講?」
ざっと一覧に目を通した悠臣は、画面から顔を上げ、呆れ顔で七緒を見た。
「何だい、これは。本気でこの全部を勉強するつもり?」
「無謀でしょうか……」
「無謀っていうか、これ、本当に佐々田さんがやりたいことなの」
「え」
やりたいやりたくない、という発想を持っていなかった七緒は、意外な返しに目を瞬かせた。