愛され秘書の結婚事情

「やりたいっていうか……。必要と思うことをピックアップしてみたんですが……。桐矢さんは、不要だと思われますか」

「思われますね」

 いつもの皮肉で応じた悠臣は、「僕はこんなことは望んでいない」と言った。

「僕と結婚する気になってくれたことは、とても嬉しい。だけど佐々田さんは誤解している。僕の妻になるのに、こんなスキルは必要ない。ただ君が君らしくいてくれたら、それで充分なんだよ」

「でもやはり、いずれサブマリンの社長になるかもしれない方ですし……」

「うーーーん……」

 これは言葉で説得するのは難しい、と考えた悠臣は、「うん、よし」と声を上げた。

「君は明日休みだよね。僕も明日は午前中休みにしたんだ。だから明日、一緒に僕の実家に行こう」

「え!」

 仰天する七緒に、悠臣は笑顔で言った。

「鎌倉に母が住んでいる。彼女は会長の妹で、副社長だった父の妻だ。つまり君が目指す立場の人間だ」

「そ、そうですね……」

「だから直接、うちの母に聞いてみたらいい。社長の妻としてどういう素養が必要なのか。いや別に聞かなくても、彼女自身を見て判断すればいい。どうだい?」

「それは確かに理に適った行動ですけれど……。急にお邪魔して、お母様にご迷惑ではありませんか。それに、私のことはどうご説明なさるおつもりですか」

「大丈夫、あの人はいつも時間だけはあるから。それと君のことはもちろん、大切な婚約者だと紹介しますよ?」

「そっ……、それは……」
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