愛され秘書の結婚事情

 二人で静かな祈りを捧げたあと、悠臣は父親の墓に向かって言った。

「お父さん。この人が、僕の愛した女性です。連れて来るのが遅くなってすみません。でもお父さんなら、笑って許してくれると思っています」

 七緒も慌てて、「初めまして、佐々田七緒と申します」と、墓に向かって頭を下げた。

「悠臣さんと結婚を前提にお付き合いしています。あの、結婚式にはぜひお父様もご出席下さい」

 彼女の挨拶に悠臣は少し驚いた顔をして、それから彼は見えない父親に向かって笑顔を見せた。

「そうですね。あなたの写真を持って出席するよう、母に伝えておきます。席もちゃんとご用意します。僕の世界一の花嫁を、あなたにも特等席で見て欲しいから」

 七緒はその言葉に少し照れて、「世界一は大袈裟です」と言った。

「じゃあ宇宙一」

「どうして規模が大きくなるんですかっ」

 そこで二人は同時に噴き出し、顔を見合わせてクスクス笑った。
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