愛され秘書の結婚事情
「常務。私は真面目に話しているんです。茶化さないで下さい」
「僕も真面目に話していますよ。ただバラの花束持参でプロポーズまでしたのに、肝心の彼女が一向に色良い返事をくれないので、ちょっと拗ねているだけです」
「……そんなことを仰られても、困ります」
「どうして」
「だって……私ですよ?」
素顔の二十九歳の女性に戻って、七緒は真剣な顔で訴えた。
「私は自分という人間を知っています。特に秀でたところのない、見た目も中身も退屈極まりない人間です。桐矢常務の伴侶となるには、あまりに力不足の人材です」
「人材ねぇ……」
悠臣は顎に手をやり、少しの間黙り込んだ。