愛され秘書の結婚事情

「そんな完璧な妻を得た僕の結婚生活は、そりゃもう悲惨だったよ。幸せだったのは最初の数ヶ月だけで。あとはギスギスした空気に満ちた無駄に広いお屋敷で、顔を合わせれば口から出るのは互いを罵る言葉だけ。使用人はみな彼女の味方で、僕は敵軍に取り残された捕虜の気分だった」

「…………」

「彼女の父親の息がかかった会社で社長という職に就いたけれど、そこでも周囲は全員、あちら陣営の人間で。誰にも心を許せず、みなが自分を監視している気分で毎日を過ごし、僕はどんどん心を病んでいった」

 自分の過去を小説でも読むような口調で、悠臣は淡々と話した。

「カウンセリングにもかかったけど何も事態は好転せず、僕は酒に逃げるようになった。ある日、会社でウォッカと精神安定剤を一緒に飲み、その場でぶっ倒れて救急車で運ばれた。……それでようやく、僕は自由の身となった」
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