さよなら、片想い
 岸さんのマンションから徒歩数分のスーパーは、年始のために閉店時間が早まっていた。店仕舞いをしたそうな店員の視線を感じながら、鍋の材料とお酒を買った。


「そういえば岸さんに通い妻の噂があったの、知っていますか」

「君だろ」

「私、通ってなかったし、妻でもないし」

「でも君のことだった。だろ」

 キッチンに二人並ぶのはさすがに手狭で、私は洗面所で米を研ぎ、きのこをほぐした。さっきコーヒーを飲んだテーブルに100均で買ったまな板を敷いて長ネギも切った。
 だけど残念なことに岸さんのほうが包丁裁きが上手くて、振り返ったら他の材料が全部刻んであった。串に刺した鶏肉まである。

「家飲みしたかったんだよ、名取さんと。だから胸中は複雑で。あんなん渡しといて、俺に一人で飲めと?」

「だからあんまり嬉しそうじゃなかったんだ……」

 話しながら、岸さんはカセットコンロを用意し、鍋に材料を投入していく。

「願いが叶ってよかったですね」

「君の願いも叶えよう。焼き鳥は塩とタレ、どっちがいい?」

「寄せ鍋あるし、タレで」

 了解、と言って岸さんは料理アプリを開く。レシピを知っているわけじゃないのか、と完璧でないところに却ってほっとした。
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