さよなら、片想い
 交替、と岸さんが向き直って私の肩を揉む。私の髪を分けて前側に落とし、うなじにキスをする。

「君は、君の君らしさは、俺のいろんなもんを取っ払う。見ているうちに惹かれるというか、つい見てしまう」

 振り向こうとしたら、
「前向いてて」
と言われた。

「ちゃんと唇にもキスするから」
とも。

 肩のマッサージは止まっていて、岸さんの手が私の髪に触っている。
 いつまで背中を向けていたらいいのかとこっちは落ち着かない。
 そのうちに後ろからふんわりと抱きしめられ、頬にキスをされた。

「明日は空いてる?」

「バーゲンに行ってきます。友達と」

 岸さんが固まった。

「朝早いってことか」

「起きたらもういないかも。お布団、抜け殻みたいになっているかも」

「君が言うと本気に聞こえる」

「よくおわかりで」
 
 冗談のつもりだった。岸さんもわかっているみたいだった。
 その一方で、私は岸さんがどんな顔でそれを言っているのかと気が気じゃなかった。

 さぐり合うように会話するのも楽しいけれど、私だって岸さんを寂しがらせてまでやりたいとは思っていない。気持ちを伝えあったばかりの今は、ハグで伝わるこの体温を甘く感じていたかった。
 緩い包容のなかで身を捩る。と、即座に顎を掴まれた。そのまま上向きにされ、強引に、なんだかわからないうちに唇と唇が重なった。

「今は、今夜のことだけ考えていてよ」

 岸さんの囁きに、ただ頷いた。
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