さよなら、片想い

「落としましたよ」

「うん」

「落としましたってば」

 押しつけるようにしても受け取ろうとしなくて。

「どうした」

 出会い頭の数秒でそう聞いてきた。



 どうした、って聞くとか……涙がこみ上げてきた。

 つきあいが長くても正臣は私の落ち込みにまるで気づかなかった。
 いかに脈がないかを、改めて思い知った。



 埒があかないので立ち上がって強引にその手に百円玉を握らせる。

 立ち去りたい。
 けど、宏臣たちを待っているんだった……。


「具合でも悪い?」

「まあそんなところです」


 結衣、と私に憂鬱な依頼を持ち込んだ張本人が近づいてくる。
 まだ心の準備ができていなかった。


「待たせたな。じゃ、行こっか!」

 私に向かってそう言ってから、岸さんに気づいて会釈するあたりがなんとも宏臣らしい。

 婚約者さんも楚々としたオーラを振りまいている。
 幸せいっぱいの、明るく眩しい気配。

 
 あたりまえに隣に立っていられることが羨ましくて、目を背けた。

 行きたくない。

 すがる思いでそばにあった岸さんのジャケットの裾を引いた。


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