ねぇ・・君!
花火と浴衣姿の妻
今年も空梅雨に終わった6月が終わり、
7月に入ったある日のこと。
この日の夜に英明と清香は
町内会の夏祭りに出かけることにした。
英明がいつもより早く帰宅をしていた。
「ただいま」
いつもなら清香から返事があるのだが、
この日に限って
清香の返事がなかったのだ。
「おいっ、清香?どうしたんだろう?」
「あっ、あなた。おかえりなさい」
清香が部屋から出てきて浴衣姿で
英明を迎えていたのだ。
突然の清香の浴衣姿に英明は驚いていた。
「清香?おまえ、浴衣に
着替えていたのか?」
「うん、おなかの目立たない
今なら浴衣が着られるかなって
思って着てみたの。
それで、部屋で浴衣の着付けをしたら
着られたから、あなたに
見てもらいたかったの」
清香の言葉に、英明は
清香を愛おしく感じていた。
思えば、清香の浴衣姿を
見るのは初めてだった
英明は、清香と恋人だった時の
気持ちに戻っていた。
「清香、よく似合っているよ。
結婚をする前に浴衣姿を
見ていないから新鮮な気持ちだよ」
「あなた、うれしい」
「清香、おまえを妻に選んでよかったよ。
おまえは、オレのことを心配する
優しい女だ。おまえと生涯をともに
生きて幸せだ。もうすぐ子供が
生まれようとしている。
おまえは、オレが思っていた家庭を
築いていこうとしている。
それだけでも幸せだと思っていただけに、
おまえの妊娠がわかった時は
うれしかった。
清香、これからもオレたちは一緒だ。
おまえのおなかにいる子供ためにも
オレは頑張っていくよ」
これは、ある意味で英明の決意であろう。
清香と産まれてくる子供ために
一家の大黒柱として家族を守っていこうと
決意をしたのだろう。
そして、清香は英明に
夕飯を用意をしていた。
「あなた、ビールはどうしますか?」
「今日は、いらない。
これから行く夏祭りの楽しみがなくなる」
実は、英明は夏祭りの日は
ビールは飲まないと決めていたのだ。
それは、今年は清香と一緒に行く夏祭り。
ある意味で、新婚生活に入った
二人にとって大きなイベントだ。
それだからこそ、英明は
ビールを飲まないと決めたのだろう。
「清香、夕飯の片づけが
終わったら出かけよう。
早く行かないと、
人でごった返すからな」
英明は、清香の浴衣姿が
うれしかったのだろう。
かなりご満悦のようだった。
「こういう和服美人と
デートをするのもいいもんだな」
「あなたったら」
「清香、今日のおまえはきれいだよ。
オレの自慢の恋女房だよ」
英明は、そう言うと
清香にキスをしていた。
この時のキスは、二人を
恋人のように心を通わせていた。
こうして、夫婦となっても
恋しい思いは変わっていない。
そんな二人は、夏祭りを見て
河原に行っていた。
その河原は、打ち上げ花火が
見えることで有名な場所であった。
そこに来ていた英明と清香は、
夫婦としてではなく、
恋人だった時に戻ってキスをしていた。
空から打ち上げ花火が上がっていた。
「清香、見てみろ。花火が上がったぞ」
「きれいね、あなた」
「清香、今だけ恋人に戻ろう。
こうして、オレたちが夫婦になれたのは
七夕の織姫と彦星がつないだと
信じたいんだ」
「織姫と彦星、ステキね」
「清香、おまえを幸せにする。
織姫と彦星がつないだ絆を
つないでいこう」
織姫と彦星、英明が言うように
清香と出会ったのは、
七夕しか会えない織姫と彦星が
何かの形でつないだのだろう。
英明は、浴衣姿の清香を見て
愛おしく感じていた。
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