キス時々恋心

***

真っ直ぐで、子犬のように人懐っこい彼が可愛くて、時々見せる男性の顔にドキドキしたりして。
なのに、初音は宮川 雪次郎という人物がどんな人間なのか何も知らなかった。

彼の引っ越しによって離ればなれになってからというもの、どんな人と出会って、どんな日常を送り、これから何をしていきたいのか……何一つ知らない。

美大の食堂で出会った彼女は、きっと雪次郎の事が大好きで、少なくとも初音よりも彼の事を知っていて、純粋な気持ちで怒ったに違いない。

初音は雪次郎の事が無性に知りたくなった。
知って、理解したかった。

バッグからスマホを取り出して、履歴からレンタル彼氏のサイトにアクセスする。
もう二度と縁が無いと思っていたあの(きら)びやかな場所。

初音が依頼したのは、三十代の落ち着いた商社マン系の男性“遼”だ。
遼はおそらく雪次郎の先輩なのだろう。
レンタル彼氏としてのノウハウは彼の方が上だという事を雪次郎も言っていた。

彼ならば雪次郎の事を何か知っているかもしれないと初音は思ったのだ。
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