夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
なにをどう言えばいいの。どうして詮索なんてしてくるの。
もしかすると木下先生は新さんを……好き?
浮かぶ答えはそれしかない。そうじゃなきゃ、ほとんど関わりのなかった私なんかに話しかけてこないはずだ。
ジクリと胸が痛んだような気がしたのは、どうやら気のせいではない。だってふたりはとてもお似合いだから。
「ごめんなさい、突然こんな話をして……実は私」
そのとき、白衣のポケットに入れていたらしい院内用のスマホが鳴った。目を見張ったあと、やれやれと言いたげに木下先生は深いため息を吐いた。
私でもわかる。きっと病棟からの呼び出しだ。
「申し訳ないわね」
そう言い電話に出る。
木下先生は不安げな表情から一変して、医師の顔つきに戻った。どうやら緊急事態のようで、緊張感が伝わってくる。私に向かってごめんなさいと手で謝ってみせたあと、勢いよく立ち上がった。
「行ってください、トレイは片付けておきますので」
小声で言うと木下先生は私に一礼して駆け足で去っていった。ほとんど手付かずのランチトレイをぼんやり見つめる。
さっき、木下先生はなにを言いかけていたんだろう。
集中しなきゃいけないのに、気になって午後からは仕事がほとんど手につかなかった。
『実は私』
あのあとに続く言葉なんだったのだろう。そればかりが気になった。