夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
今夜は離れ離れでよかったかもしれない。
心にぽっかり穴が開いたような感覚は、時間が経てば経つほど大きくなっているようだった。
マンションに帰って家電や皿、買い足した日用品を受け取って梱包を解いていても、木下先生の顔がどこかにあった。
「よし、ひとまず設置完了っと!」
新品の炊飯器にオーブンレンジにトースター。そしてふたりで選んだ夫婦茶碗に箸に湯呑み。どれもお気に入りのはずなのに、今は見ているだけでツラい。
「ダメダメ、落ち込んでちゃ!」
こんなの私らしくない。腕まくりをして気合いを入れる。こんなときは無心で料理するのが一番だ。早速帰りに買ってきた食材を袋から出してキッチンに並べた。
今日のメニューはカレーだ。ルーを使ったものではなく、スパイスを調合して作る本格カレー。これが唯一の私の得意料理。
たくさんのスパイスを使うから絶妙な味になるのよね。そのぶん失敗したときの味も強烈なのだけれど。
早速お米を研いで炊飯器にセットした。そして次に材料を切って鍋にかける。
その間もモヤモヤして落ち着かない。これまでは料理をすれば多少嫌なことがあっても忘れられたのに。
次なる手段は進に電話して話を聞いてもらう。キッチンの隅に置いていたスマホを手にし、進の番号を呼び出した。
「桃子?」
「あ、進!」
「どうした、なんかあったのか?」
すぐに電話に出た進は驚いたような声を出した。
いつもなら優しく「どうしたんだ?」って言ってくれるのに焦っているようだ。