夫婦蜜夜〜エリート外科医の溺愛は揺るがない〜
「お弁当です。ありあわせのものばかりですけど」
「これを、桃子が?」
信じられないと言いたげに瞳を揺らす新さん。さらには唇を引き結んで、なにかをこらえているようだった。
もしかして、余計なお世話だった?
いや、本当に食べられるものなのかと心配しているのかもしれない。
「あの、無理に食べろとは言わないので。いらなければ私が」
「いや、その必要はない」
「え?」
「俺のために作ってくれたものだろ」
「ええ、まぁ、そうですね」
「だったら俺のだ」
ゆっくりと手を伸ばしてランチバッグを受け取る新さんは、まじまじとそれを見つめる。フワッと柔らかくなった横顔になにも言えなくなった。
なんだか、うれしそうなんですけど。そう見えるのは私の勘違いかな。だけど悪い気はしなくて、それどころか受け取ってもらえてホッとしている私がいた。
受付で自分のデスクにつき、パソコンを立ち上げる。
「おはよう、雪名さん」
「あ、おはようございます、清山さん」
「なんだかうれしそうね。いいことでもあった?」
清山さんはニヤニヤしながらからかうような表情を浮かべた。
「特にはないですけど」
「そう?」
ふと脳裏によぎった考えを打ち消す。弁当を受け取ってもらえてうれしいなんて、あるはずないんだから。