センチメンタル・ファンファーレ
そう言われて、何と答えるのが正解なのか。
誤魔化すように口に含んだカフェラテは、吐くかと思うほどに甘かった。
眉間に皺を寄せる私に、白取さんは囁いた。
「必要なら深瀬さんを始末しようか?」
つい吹き出して、笑いが止まらなくなった。
「それはお願いしたいです」
「仲良くデート?」
白取さんの背後で突然声がして、状況を理解するより早く川奈さんは白取さんの隣に座った。
私は慌てて身を引いたけれど、白取さんはゆったり構えている。
「そんなところ」
私たちの間で、甘ったるいのはカフェラテだけだったのに、白取さんは還暦越えの男性ファンまで虜にするような甘い笑顔を浮かべて答えた。
「違う違う! お兄ちゃんの誕生日が近くて、プレゼント探してたら、たまたま白取さんに会って……」
口から出任せの嘘は、お兄ちゃんの誕生日が来週であることだけ本当だった。
プレゼントの予定はない。
「白取くん、深瀬さんの好みなんて知らないでしょ?」
「一般的な男性の意見として答えたよ」
「深瀬さんは一般的じゃない」
「じゃあ、川奈さんなら深瀬さんの好みに詳しいの?」
考えた末に答えがわからなかったようで、川奈さんの表情が無になる。
「グレーが、好きだと思う」
白取さんは鼻で嗤った。
「それ、財布の色でしょ」
「嫌いな色の財布は持たないよ」
「グレーは“無難”な色だよね」
おいしそうにコーヒーを飲んで、
「川奈さんは何も飲まないの?」
と隣を見やる。
川奈さんが渋々ショップの方に行くと、私は小声で白取さんを責めた。
「見られる心配ないって言ったくせに!」
「いつもは指導のあと食事に行くけど、今日は解散したみたいだね」
「最悪……」
「まあまあ、面白いことになってきたからさ」
「面白くない!」
コーヒーだけ注文した川奈さんはすぐに戻ってきて、ブラックのまま口に運びながら、白取さんを睨む。
わかっていて、白取さんは優雅に残りのクラブハウスサンドを食べ進めた。
私も間が持てなくてベーグルをかじる。
ベーグルが固くて、食べるのに時間がかかることを初めて感謝した。
「ねえ、弥哉」
前言撤回。
急に甘ったるい声色を使う白取さんのせいで、ベーグルが喉に詰まりかける。
「さっきの話だけど、」
「さっき?」
「うん。ふたりのこと」
組んだ手の上に顎を乗せ、白取さんは微笑んだ。
「俺は、今みたいな曖昧な状態じゃなくて、もう少し関係を進めた方がいいと思う」
暖房が効いているとはいえ、特段暑くはないはずなのに、背中にじっとり汗をかく。
チラリと川奈さんを伺うと、不機嫌にベーカリーの方を向いている。
「考えておいて」
長い腕が伸びてきて、私の髪をサラリと撫でた。
「じゃあ、またね。川奈さんも、お先に失礼します」
誤魔化すように口に含んだカフェラテは、吐くかと思うほどに甘かった。
眉間に皺を寄せる私に、白取さんは囁いた。
「必要なら深瀬さんを始末しようか?」
つい吹き出して、笑いが止まらなくなった。
「それはお願いしたいです」
「仲良くデート?」
白取さんの背後で突然声がして、状況を理解するより早く川奈さんは白取さんの隣に座った。
私は慌てて身を引いたけれど、白取さんはゆったり構えている。
「そんなところ」
私たちの間で、甘ったるいのはカフェラテだけだったのに、白取さんは還暦越えの男性ファンまで虜にするような甘い笑顔を浮かべて答えた。
「違う違う! お兄ちゃんの誕生日が近くて、プレゼント探してたら、たまたま白取さんに会って……」
口から出任せの嘘は、お兄ちゃんの誕生日が来週であることだけ本当だった。
プレゼントの予定はない。
「白取くん、深瀬さんの好みなんて知らないでしょ?」
「一般的な男性の意見として答えたよ」
「深瀬さんは一般的じゃない」
「じゃあ、川奈さんなら深瀬さんの好みに詳しいの?」
考えた末に答えがわからなかったようで、川奈さんの表情が無になる。
「グレーが、好きだと思う」
白取さんは鼻で嗤った。
「それ、財布の色でしょ」
「嫌いな色の財布は持たないよ」
「グレーは“無難”な色だよね」
おいしそうにコーヒーを飲んで、
「川奈さんは何も飲まないの?」
と隣を見やる。
川奈さんが渋々ショップの方に行くと、私は小声で白取さんを責めた。
「見られる心配ないって言ったくせに!」
「いつもは指導のあと食事に行くけど、今日は解散したみたいだね」
「最悪……」
「まあまあ、面白いことになってきたからさ」
「面白くない!」
コーヒーだけ注文した川奈さんはすぐに戻ってきて、ブラックのまま口に運びながら、白取さんを睨む。
わかっていて、白取さんは優雅に残りのクラブハウスサンドを食べ進めた。
私も間が持てなくてベーグルをかじる。
ベーグルが固くて、食べるのに時間がかかることを初めて感謝した。
「ねえ、弥哉」
前言撤回。
急に甘ったるい声色を使う白取さんのせいで、ベーグルが喉に詰まりかける。
「さっきの話だけど、」
「さっき?」
「うん。ふたりのこと」
組んだ手の上に顎を乗せ、白取さんは微笑んだ。
「俺は、今みたいな曖昧な状態じゃなくて、もう少し関係を進めた方がいいと思う」
暖房が効いているとはいえ、特段暑くはないはずなのに、背中にじっとり汗をかく。
チラリと川奈さんを伺うと、不機嫌にベーカリーの方を向いている。
「考えておいて」
長い腕が伸びてきて、私の髪をサラリと撫でた。
「じゃあ、またね。川奈さんも、お先に失礼します」