探偵さんの、宝物
三章【影】

一節【ストーカー対策】

 私は子供の頃、ヒーローに憧れていた。
 この力で、悪者に襲われる友達を助ける妄想をしていた。
 それが叶ったとき、ヒーローが正体を隠す理由を知った。



 ――大丈夫かな、楓堂さん。
 午後四時半、暗くなってきた応接室の明かりを点けた。

 今回、私はお留守番だ。
 さっきまで書斎のデスクで調査報告書の誤字脱字チェックをしていた。
 正直私がここにいてもできることは少ないので、掃除を始めることにする。

 一人だとこの家はとても広く、ひんやりとして静かな感じがする。ここで寝起きする楓堂さんは寂しくならないのかな。

 彼は一人でストーカー被害に遭っている女子高生のところに行っている。

 依頼人――正確には両親が依頼してきたけど――は学校から帰る時に、男性に後をつけられているらしい。
 楓堂さんの仕事は彼女の学校からの帰り道を一定の距離をあけてついて歩き、ストーカーが現れたらつきまとい行為をしている場面を撮影すること。証拠が取れて犯人の素性が分かれば、警察が動いてくれるようになる。

 私も行く気満々だったのに「今回はお留守番です」と言われてしまった。
 彼は戸締りに気を付けるよう私に注意したあと、依頼人と連絡を取るための小型のインカムやカメラを持って出て行ってしまった。

 ――私が足手まといだから、置いて行かれたんだろうな。

「……悔しい」

 ふわふわのハンディモップで棚の埃を取りながら呟いた。

 私も早く誰かを助けられるようになりたい。

 帰りに書店に寄って、尾行技術について書かれた本を探そうと心に決めた。
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