探偵さんの、宝物
 彼女の家は、三年前に尾花さんを探した時と変わりはなかった。木造二階建ての一軒家だ。
 部屋はカーテンが閉まっていて暗い。お母さんはまだ仕事から帰ってきていないらしい。

「楓堂さん、ありがとうございました」

 玄関に近付くと、人感センサーでゆっくりと明かりが点いた。
 彼女は振り向き、丁寧に頭を下げてくれた。

「いえ、現場を見たのに証拠を取れず、不甲斐ないです」
 久しぶりに挫折を味わっていた。本当に悔しかった。

「そんな……。あの、楓堂さんが後ろにいて下さったので、とても心強かったですよ?」
 尾花さんは優しく言う。
 気を遣ったんだとしても、そう言ってもらえるのは嬉しかった。

 今日の結果から、既に僕はこれからの行動方針を決めていた。

「明日からは、撮影はやめて警護に回ることにします」
「警護、ですか?」
「僕が毎日お送りします」
「そんな! それは悪いですよ!」
 彼女は慌てたように、ふるふると首を振った。
「僕がそうしたいので。何かあってからでは遅いですから。
 ……迷惑ですか?」
 僕は首を傾げて聞く。

 本気で嫌がられて断られたら、諦めようと思っていた。
 僕が彼女の『善意のストーカー』なのかも知れないから。守っているつもりでついて歩くが、本人がそれを望んでいないというあれだ。

「迷惑じゃないです、むしろありがたいですけど、そこまでしてもらえません!」
 あわあわと手を振る尾花さん。慌てっぷりが可愛いくらいだ。
「なら、決まりです」
 僕は大きく頷いた。
「えええ……」
 彼女はまだ何か言いたげだったが、結局は小さな声で「よろしくお願いします」と言った。



 彼女の帰り道の警護をすることが決まった。
 あとはこの件を『あの人』に相談してみよう、と僕は考えていた。
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