冷徹社長の初恋
「す、すいません。いい歳して子どもみたいで……」

「いや。絲のかわいい唇に触れられたんだから、得した気分だな」

「えっ?」

再び顔が熱くなっていくのがわかる。
春日さんは、何を言っているのだろう……
戸惑っていると、春日さんがもう一度私の唇に触れてくる。そして、熱のこもった視線を向けてきた。

「絲。そんなに擦っては荒れてしまうぞ。こんなにかわいい唇なのに」

だめだ。
私の頭の中は、パンク寸前だ。もう何を言われているのかわからなくなる。

でも、私が何かを言う前に、春日さんは雰囲気を変えた。


「そろそろ出るか。仕事で疲れている絲を連れ回すのは、本意じゃない。遅くならないうちに、送っていくとしよう」

この日もやっぱり、春日さんがスマートに支払いをすませてしまった。

「春日さん、先日も奢ってもらいましたし、今日はちゃんとお支払いします」

「いや、受け取らない。絲は無償で協力してくれているんだ。今日だって、無理言って参観させてもらったんだ。そのお返しだ。
だいたい、この歳の厳ついおやじが、若い絲にお金を払わさせるなんて、格好がつかないだろ?」

若干、顔をしかめる春日さんがおかしくて、思わず笑ってしまった。

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