きみこえ
Love is !???




 三日間の文化祭も終わり、体育館での閉会式も終えた。
 ホームルーム後、ほのか達は制服に着替え、机と椅子の移動と簡単な片付けをしていた。
 本格的な片付けは休日明けからの予定になっている。

「あーあ、惜しかったな。飲食部門二位かー」

 陽太は閉会式での各部門の順位発表を思い出し、残念そうにぼやいた。

「ああ、二年生のクラスの『焼きたてメロンパン』に負けるとはな」

 冬真はノートに今後の研究にと、今回の反省点や注意点等をまとめていた。

「あー、あれ食べたけど美味かったな! ね、月島さん!」

 そう声を掛けるも、ほのかの返事はなく、ほうきを持ったまま放心していた。

「どうやら伝説のプリンが貰えなくて相当ショックのようだな」

「やっぱり? 凄く楽しみにしてたもんな。冬真、お前伝説のプリンを二年生から一口貰って、味を完全再現とか出来ないのかよ」

「無茶を言うな。そんなに簡単に出来たら伝説にならないだろう。そもそも、俺は一口でもプリンなんか食べないぞ」

 ほのかにはそんな二人の会話も目に入らない程意気消沈していた。
 落ち込み過ぎて、ほうきは一ミリも床を滑らずにいた。
 そんな時、クラスの喧騒を破るように、ノイズと共に校内放送が始まった。

『生徒会長の濱永です。皆さん、文化祭お疲れ様でした。これより、後夜祭を始めます』

「後夜祭? うちの学校って後夜祭あったんだ」

「そうなの? 先輩からは毎年やってないって聞いてたけど」

 クラスではそんな会話が飛び交いざわめいた。

「月島さん、後夜祭やるって」

 ほのかは陽太に肩を揺さぶられ、後夜祭と言われ少しだけ興味をもった。

【キャンプファイヤー? フォークダンス?】

『後夜祭と言っても、キャンプファイヤーをしたり、フォークダンスをしたりではなくて残念かもしれませんが、これから私と隠れんぼをしてもらいます』

 全校生徒の思考を読んだかの様に生徒会長はそう告げた。

「なんだ、隠れんぼとか結構地味だな」

『ルールは簡単です。午後五時のチャイムがなるまでに、私を探して下さい。誰かが私を見つけたらそこで後夜祭は終了です。また、先着で私を見つけた方には特別に伝説のプリンを差し上げます』

「プリン! 月島さん! プリンが貰えるかもって!」

 陽太にそう言われ、放送の内容が良く分かっていないほのかは『プリン』というワードで顔に生気が戻った。

【プリン、欲しい!】

「隠れんぼで生徒会長を見つければいいらしいよ」

『それから、後夜祭は自主参加ですので、参加されない方は帰宅しても大丈夫です。それでは五分後のチャイムが鳴ったらスタートです。それでは是非私を見つけてくれるのをお待ちしています』

 放送はそこで終わった。

「冬真は? 一緒に探しに行く?」

「疲れたし先に帰る。プリンにも興味ないしな」

 そう言いながら冬真はいそいそと帰り支度を始めた。

「よし、じゃあ月島さん! 誰よりも早く生徒会長を探してやろう! プリンの為に!」

【プリンの為に!】

 ほのかはプリンが貰えるチャンスにやる気を出し、土埃を巻き上げる程猛烈に床をはき始め、あっという間に掃除を終わらせた。
 そして、校内中にチャイムという名の戦闘開始を告げるゴングが鳴り響くと、陽太はいつもの様にほのかに笑顔を向けた。

「それじゃあ行こうか!」

 ほのかは胸にプリンへの期待を抱きながら陽太と共に廊下へと走り出した。





 ほのか達がまず目指したのは放送室だった。
 きっと、他の生徒達も考えている事は一緒なのか、走る方向は同じだった。
 だが、陽太には勝算があった。
 陽太とほのかは足が速い、それもかなりだ。
 二人の右に出る生徒は居ない筈だ。

「よし! 放送室一番乗り!」

 陽太はまだ誰も来ていない放送室の扉を開け放つと勝ったも同然な声でそう言った。
 だが、目の前の光景は陽太の期待を裏切ったものだった。

【誰も居ない】

「くーー、やっぱりそのまま放送室に残ってるわけないよな・・・・・・。何かヒントでもあればいいのに」

 こんな時、頭脳派の冬真が居ればと二人は同じ事を考えた。

「こーなったら片っ端から教室を開けていくか・・・・・・」

 探す前に、ほのかは生徒会長がどんな人なのかが気になった。
 体育館での話も校長先生のやたらと長い話はあったが、生徒会長の話は校内放送だけだった為、声も聞いた事がないほのかにはどんな人物なのかも想像が出来なかった。

【生徒会長はどんな人なの?】

「あー、月島さんは生徒会選挙の時居なかったもんね。背の低めの男子で、綺麗な顔立ちで、あと腕に生徒会長って書いてある腕章をつけてる筈だな。取り敢えず、他の教室を探してみよう」

 今は他に為す術もない為、ほのかは陽太に賛同した。




 それから、ほのか達は廊下の端から端まで、片っ端らから扉を開けまくった。
 二人の足ならば、それはかなりの速さで行う事が出来たが、ただただ闇雲に開けているだけで一向に生徒会長を見つけ出せずにいた。

「おかしいな、職員室も保健室も体育館も、探せる所は全部探したのに」

 周りを見れば他の生徒も同様に教室の扉を開けては目的の人物が居ない事に肩を落としていた。
 陽太は教室の時計を見た。
 四時五十分、残り時間はたったの十分しかない。

「あー、隠れんぼを侮ってた! 生徒会長がこんなにも隠れ上手とはな・・・・・・」

 陽太がまた走り出そうとした時、ほのかはふと疑問に思って陽太の腕を掴んだ。

「どうしたの?」

【本当に隠れているのかなと思って】

 ほのかは、これだけ探しても見つからないなら、本当に隠れているのかが怪しく思えてきていた。

「・・・・・・待てよ?」

 陽太は走っている間に、他の生徒達も同じく走り回っている姿を見ていた。
 その中には、まだ制服に着替えていない、つまり、仮装をしたままの生徒もまだ居た。

「もしかすると、俺達と混ざって走り回っているとしたらどうだ? そりゃ見つからないよな。しかも、変装しているとしたら・・・・・・」

 陽太達はずっと頭に思い浮かべていた制服に腕章の姿にとらわれ過ぎていた。
 そして気が付いた。
 これは隠れんぼではなく鬼ごっこだと。

【なら今どこに?】

「そうだな・・・・・・、またあてもなく走っても時間切れになる気がするし。あれ、そういえば・・・・・・」

 陽太は記憶の中で、他の生徒の中で不自然な行動をする生徒が居たのを思い出した。

「俺、分かったかもしれない。月島さん俺に付いて来て!」




 陽太とほのかは美術室や化学室等が集まる廊下に辿り着いた。
 そこには、陽太の考え通りある生徒が居た。
 その生徒は教室の扉を開けては閉め、また隣の教室まで走ると扉を開けては閉めという動作を繰り返していた。
 陽太はその生徒の手首を掴んだ。

「みーつけた! 先輩・・・・・・いや生徒会長」

 その生徒は抵抗するでもなく、否定するでもなく、くるりと振り返るとさも嬉しそうな顔をした。

「やあ、君か。まさか君に見つかるとは思っていなかったよ」

 その生徒は陽太が二日目に一緒に受付当番をしていたおさげ髪でシスター服を着たあの二年生の先輩だった。

「さて、後夜祭終了の放送をしなければならないからね、場所を移そうか」
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