きみこえ
X'mas if 後編 この聖夜にぬくもりを・・・・・・
それからほのかと夏輝は値引きもせずにただひたすらにケーキを売りまくっていた。
値引きをせずとも割と需要があり、そこそこ売れていた。
しかし、時は夕暮れ、日が落ち、気温も下がり、何時間も外に居るほのかは寒さから体が震えていた。
「おい、大丈夫か?」
そんな様子のほのかに夏輝は気遣い声を掛けた。
【南極と比べれば寒くない】
ほのかはカタカタと震えながら寒さでかじかむ手でそう書いた。
「そんなに震えて説得力は皆無だな。そもそも南極行った事あんのかよ。ほら」
夏輝はほのかの腕を引き抱き寄せた。
少しでも震えが止まるように、少しでも温まるように、強く、強く抱き締めた。
ーー温かい。
それはとてもほっとするぬくもりだった。
じんわりと夏輝からの熱が伝わり、ほのかの体温も少しずつ上がっていった。
ドクドクと脈打つ心臓の鼓動が触れ合う体から感じられ、ほのかは急に落ち着きをなくしソワソワした。
そして、ほのかはここは街中だという事を思い出し、恥ずかしさから顔は赤くなり、体中の血が煮えたぎる様に熱くなった気がした。
「お、大分あったまったか?」
夏輝は笑顔を浮かべてほのかを体から離した。
火照った顔をあまり見られたくなくてほのかは勢い良く顔を縦に振りまくった。
「俺は普段から体温高いからな、寒くなったらいつでも言えよ。いつでもあっためてやる」
そんな時、大きな音を鳴らして店の扉が開いた。
出てきたのは勿論店主の蜜香だ。
「店先でイチャイチャするんじゃないよーーー! この小童共が!」
「うるせーなー」
「全く、まだまだケーキが残ってるじゃないさ、イチャコラしてないで仕事しな!!」
そう言いながら店の中に引っ込む蜜香を見送ると、夏輝はほのかの手を握り、そのまま自分のポケットに入れた。
そんな夏輝の行動に驚き、ほのかは顔を上げた。
「この位だったらいいだろ」
そこには少し照れた夏輝の顔があり、その後も客が居ない時は手を握りポケットの中でほのかの手を温めた。
夜の七時になり、何とかケーキは売り切れた。
帰宅ラッシュの時間に沢山売れた事と、一番の奇跡は通りかかった翠がケーキを三百個も買っていった事だった。
翠は蜜香の店の常連でもあったが、事情を話すと屋敷の人間を労う為にとケーキを大量に買ってくれたのだった。
無論、大量のケーキは手に持ちきれない為、梅田がトラックに詰め運んで行った。
「へー、あの量を売り切るとは大したもんね、まあ、ほぼ露木さん家の坊ちゃんのお陰だろうけど。さ、お疲れさん。これが給料だよ、受け取んな」
二人は蜜香から給料と書かれた茶色い封筒を受け取った。
「あざーす」
【ありがとうございます】
二人は嬉々として封筒の中身を取り出した。
手のひらに、まあるい硬貨がいくつか転がった。
「ん?」
その金額七百六十円、夏輝は何かの手違いかと思わんばかりに何度もその小銭を数え、何度も取り出し忘れじゃないかと封筒の中を見た。
だが、いくら数えようと小銭が増える事もなく、いくら見ようと封筒の中は空っぽのままだった。
「これ何かの間違いじゃないんすか? 札が入ってないんすけど?」
「んー? 合ってるよ」
「はあ? 最低賃金より低いじゃねえか!」
夏輝の追求に蜜香はキレた。
「ああん? 勝手に割引やらケーキの叩き売りやらしておいて、言っただろう? 損失分は給料から引くって! マイナスにならなかっただけ有難く思うんだね!」
「あああああー、くそっ!」
夏輝はこのバイト代で年末年始を悠々自適に過ごす予定だった。
だが、このバイト代では何の役にも立たない。
「あと、あんたにはこれね」
そう言って蜜香はほのかにケーキの箱を手渡した。
ほのかが中を見るとそこには大きなクリスマスケーキが入っていた。
アルバイトをしていた時からずっと気になっていたケーキがまさか手に入るとは思わず、ほのかは給料を貰えた時よりも喜んだ。
【ありがとうございます!!】
「何だかんだで全部売り切れたしね、助かったよ。さ、さっさと店閉めてデートしてやるわ! あんた達も仲良くやんなよ、じゃあね」
「えっ、ちょっ、おい! まだ話は!」
夏輝はまだ文句を言い足りなかったが、蜜香に店を閉め出されてしまった。
「ちっ、これっぽっちじゃな・・・・・・」
夏輝は貰った小銭を悲しげに見つめ握り締めた。
ほのかはそんな夏輝を少しでも慰められたらと思い、手に持ったケーキを見た。
そして、ケーキを夏輝に渡すとスケッチブックに文字を書いた。
【食べきれないから一緒にケーキ食べて?】
「おう、いいのか? そうだな・・・・・・この小銭もどうせならパーッと使ってクリスマスパーティでもするか!」
「狭いとこだが、まあ上がれよ」
【お邪魔します】
二人はケーキを食べる場所に困っていた。
最初は公園を考えたが真冬の夜は寒すぎるし、どこかの店に入るのも食品を持ち込むのは良くないと判断し、結局距離的に一番近い夏輝の家で食べる事にした。
ほのかは夏輝の部屋が思ったより片付いている事に驚いていた。
一人暮らしをしている夏輝の家はワンルームのマンションで、部屋にはベッドとテレビと小さな本棚と家具は少ないが、一番驚いたのは部屋の真ん中に長方形のコタツがドンと構えていた事だった。
ほのかは自分の家にはコタツがなく、コタツのある家がいつも羨ましかった。
その憧れからほのかは目を輝かせた。
「ああ、コタツ入ってていいぞ。寒かっただろ? 実家から貰ってきたやつだからやたらデカいけど」
夏輝はケーキと、道中のコンビニで買ったチキンやら飲み物を机に置くとコタツとテレビの電源を入れた。
ほのかはそっと布団の中に入ると次第にヒーターが温まり、じんわりとしたその熱はとても幸せな気分にさせた。
その間も夏輝はコンビニで買ってきた『オ・レのカフェ・オ・レ 俺のスペシャル!!』と、それの姉妹品であるイチゴ・オ・レを温めた物やケーキを取り分ける皿やフォークを用意して持ってきた。
「コタツそんなに気持ちいいのか?」
ほのかはコタツのあまりの温かさに猫の様に背中を丸め、机の上にはとろけた顔を乗せ、それを見た夏輝はクスリと笑った。
【ここに楽園がある・・・・・・出る事は不可能】
「そーかよ」
机の上に飲み物等を置くと夏輝はほのかの横に腰掛けた。
「そんなに気に入ったんなら・・・・・・ずっとここに居てもいいぞ?」
そう言うとほのかは目を丸くし、徐々に顔を赤らめた。
夏輝もほのかの反応を見て自分の言った意味に気が付くと急に恥ずかしさが込み上げ頬を染めた。
「じょ、冗談に決まってんだろ! ほれ、チキンを食え! ケーキを食え!」
恥ずかしさを紛らわす為に夏輝はほのかの皿にこれでもかとチキンやらケーキやらを乗せた。
それから二人はケーキを食べながらクリスマスらしい映画を見ていた。
ほのかはと言うとお腹もいっぱいになって、コタツの温かさも相まってウトウトし、睡魔に抗えず夏輝に寄りかかった。
「!」
夏輝は自分の肩に当たる感触に驚いた。
最初は起こそうかとも思ったが、幸せそうな顔で寝入っているほのかを見て起こすのは忍びないと感じた。
その代わり、起きないのをいい事に、寝顔を観察したり頭を撫でたりしていた。
愛おしそうな表情でほのかを見ながら夏輝は今日あった事を思い出していた。
本当に一日大変だった。
去年のクリスマスは一人でアルバイトに明け暮れていた。
当然、家に帰っても一人でクリスマスらしい事もなく、普通の日と同じ様に過ごすだけだった。
だが、今年は明らかに違いがある。
「こういうのもいいかもしれないな・・・・・・」
自分には関係の無いと思っていたクリスマスも、大事に思える人が隣に居るというだけで、こんなにも心が温かく感じられた。
その幸福感を大切に思いながら夏輝はほのかに凭れ掛かり瞳を閉じた。
それからほのかと夏輝は値引きもせずにただひたすらにケーキを売りまくっていた。
値引きをせずとも割と需要があり、そこそこ売れていた。
しかし、時は夕暮れ、日が落ち、気温も下がり、何時間も外に居るほのかは寒さから体が震えていた。
「おい、大丈夫か?」
そんな様子のほのかに夏輝は気遣い声を掛けた。
【南極と比べれば寒くない】
ほのかはカタカタと震えながら寒さでかじかむ手でそう書いた。
「そんなに震えて説得力は皆無だな。そもそも南極行った事あんのかよ。ほら」
夏輝はほのかの腕を引き抱き寄せた。
少しでも震えが止まるように、少しでも温まるように、強く、強く抱き締めた。
ーー温かい。
それはとてもほっとするぬくもりだった。
じんわりと夏輝からの熱が伝わり、ほのかの体温も少しずつ上がっていった。
ドクドクと脈打つ心臓の鼓動が触れ合う体から感じられ、ほのかは急に落ち着きをなくしソワソワした。
そして、ほのかはここは街中だという事を思い出し、恥ずかしさから顔は赤くなり、体中の血が煮えたぎる様に熱くなった気がした。
「お、大分あったまったか?」
夏輝は笑顔を浮かべてほのかを体から離した。
火照った顔をあまり見られたくなくてほのかは勢い良く顔を縦に振りまくった。
「俺は普段から体温高いからな、寒くなったらいつでも言えよ。いつでもあっためてやる」
そんな時、大きな音を鳴らして店の扉が開いた。
出てきたのは勿論店主の蜜香だ。
「店先でイチャイチャするんじゃないよーーー! この小童共が!」
「うるせーなー」
「全く、まだまだケーキが残ってるじゃないさ、イチャコラしてないで仕事しな!!」
そう言いながら店の中に引っ込む蜜香を見送ると、夏輝はほのかの手を握り、そのまま自分のポケットに入れた。
そんな夏輝の行動に驚き、ほのかは顔を上げた。
「この位だったらいいだろ」
そこには少し照れた夏輝の顔があり、その後も客が居ない時は手を握りポケットの中でほのかの手を温めた。
夜の七時になり、何とかケーキは売り切れた。
帰宅ラッシュの時間に沢山売れた事と、一番の奇跡は通りかかった翠がケーキを三百個も買っていった事だった。
翠は蜜香の店の常連でもあったが、事情を話すと屋敷の人間を労う為にとケーキを大量に買ってくれたのだった。
無論、大量のケーキは手に持ちきれない為、梅田がトラックに詰め運んで行った。
「へー、あの量を売り切るとは大したもんね、まあ、ほぼ露木さん家の坊ちゃんのお陰だろうけど。さ、お疲れさん。これが給料だよ、受け取んな」
二人は蜜香から給料と書かれた茶色い封筒を受け取った。
「あざーす」
【ありがとうございます】
二人は嬉々として封筒の中身を取り出した。
手のひらに、まあるい硬貨がいくつか転がった。
「ん?」
その金額七百六十円、夏輝は何かの手違いかと思わんばかりに何度もその小銭を数え、何度も取り出し忘れじゃないかと封筒の中を見た。
だが、いくら数えようと小銭が増える事もなく、いくら見ようと封筒の中は空っぽのままだった。
「これ何かの間違いじゃないんすか? 札が入ってないんすけど?」
「んー? 合ってるよ」
「はあ? 最低賃金より低いじゃねえか!」
夏輝の追求に蜜香はキレた。
「ああん? 勝手に割引やらケーキの叩き売りやらしておいて、言っただろう? 損失分は給料から引くって! マイナスにならなかっただけ有難く思うんだね!」
「あああああー、くそっ!」
夏輝はこのバイト代で年末年始を悠々自適に過ごす予定だった。
だが、このバイト代では何の役にも立たない。
「あと、あんたにはこれね」
そう言って蜜香はほのかにケーキの箱を手渡した。
ほのかが中を見るとそこには大きなクリスマスケーキが入っていた。
アルバイトをしていた時からずっと気になっていたケーキがまさか手に入るとは思わず、ほのかは給料を貰えた時よりも喜んだ。
【ありがとうございます!!】
「何だかんだで全部売り切れたしね、助かったよ。さ、さっさと店閉めてデートしてやるわ! あんた達も仲良くやんなよ、じゃあね」
「えっ、ちょっ、おい! まだ話は!」
夏輝はまだ文句を言い足りなかったが、蜜香に店を閉め出されてしまった。
「ちっ、これっぽっちじゃな・・・・・・」
夏輝は貰った小銭を悲しげに見つめ握り締めた。
ほのかはそんな夏輝を少しでも慰められたらと思い、手に持ったケーキを見た。
そして、ケーキを夏輝に渡すとスケッチブックに文字を書いた。
【食べきれないから一緒にケーキ食べて?】
「おう、いいのか? そうだな・・・・・・この小銭もどうせならパーッと使ってクリスマスパーティでもするか!」
「狭いとこだが、まあ上がれよ」
【お邪魔します】
二人はケーキを食べる場所に困っていた。
最初は公園を考えたが真冬の夜は寒すぎるし、どこかの店に入るのも食品を持ち込むのは良くないと判断し、結局距離的に一番近い夏輝の家で食べる事にした。
ほのかは夏輝の部屋が思ったより片付いている事に驚いていた。
一人暮らしをしている夏輝の家はワンルームのマンションで、部屋にはベッドとテレビと小さな本棚と家具は少ないが、一番驚いたのは部屋の真ん中に長方形のコタツがドンと構えていた事だった。
ほのかは自分の家にはコタツがなく、コタツのある家がいつも羨ましかった。
その憧れからほのかは目を輝かせた。
「ああ、コタツ入ってていいぞ。寒かっただろ? 実家から貰ってきたやつだからやたらデカいけど」
夏輝はケーキと、道中のコンビニで買ったチキンやら飲み物を机に置くとコタツとテレビの電源を入れた。
ほのかはそっと布団の中に入ると次第にヒーターが温まり、じんわりとしたその熱はとても幸せな気分にさせた。
その間も夏輝はコンビニで買ってきた『オ・レのカフェ・オ・レ 俺のスペシャル!!』と、それの姉妹品であるイチゴ・オ・レを温めた物やケーキを取り分ける皿やフォークを用意して持ってきた。
「コタツそんなに気持ちいいのか?」
ほのかはコタツのあまりの温かさに猫の様に背中を丸め、机の上にはとろけた顔を乗せ、それを見た夏輝はクスリと笑った。
【ここに楽園がある・・・・・・出る事は不可能】
「そーかよ」
机の上に飲み物等を置くと夏輝はほのかの横に腰掛けた。
「そんなに気に入ったんなら・・・・・・ずっとここに居てもいいぞ?」
そう言うとほのかは目を丸くし、徐々に顔を赤らめた。
夏輝もほのかの反応を見て自分の言った意味に気が付くと急に恥ずかしさが込み上げ頬を染めた。
「じょ、冗談に決まってんだろ! ほれ、チキンを食え! ケーキを食え!」
恥ずかしさを紛らわす為に夏輝はほのかの皿にこれでもかとチキンやらケーキやらを乗せた。
それから二人はケーキを食べながらクリスマスらしい映画を見ていた。
ほのかはと言うとお腹もいっぱいになって、コタツの温かさも相まってウトウトし、睡魔に抗えず夏輝に寄りかかった。
「!」
夏輝は自分の肩に当たる感触に驚いた。
最初は起こそうかとも思ったが、幸せそうな顔で寝入っているほのかを見て起こすのは忍びないと感じた。
その代わり、起きないのをいい事に、寝顔を観察したり頭を撫でたりしていた。
愛おしそうな表情でほのかを見ながら夏輝は今日あった事を思い出していた。
本当に一日大変だった。
去年のクリスマスは一人でアルバイトに明け暮れていた。
当然、家に帰っても一人でクリスマスらしい事もなく、普通の日と同じ様に過ごすだけだった。
だが、今年は明らかに違いがある。
「こういうのもいいかもしれないな・・・・・・」
自分には関係の無いと思っていたクリスマスも、大事に思える人が隣に居るというだけで、こんなにも心が温かく感じられた。
その幸福感を大切に思いながら夏輝はほのかに凭れ掛かり瞳を閉じた。