妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
結婚と共にムラヅマ商事は退社した。
しばらくはのんびりしていても良いぞと恭介君は言ってくれたけれど、私はすぐにでもアザレア音楽スクールの仕事に携わりたいと希望する。
私の選択に晶子先生がすごく喜んでくれて、トントン拍子に話が進み、早速週明けから駅前教室で働き出すことになったのだ。
そんな日曜日の夕方、私は自室のクローゼットの前で洋服たちと睨めっこしている。
「第一印象は大事よね」
駅前の音楽スクールにはこれまでも何度も出入りしているため、顔なじみのスタッフは多いけれど、講師の中で会ったことのない人も数人いる。
しかしそれ以上に気がかりなのは、明日は他の教室の室長とのミーティングが駅前教室で行われるらしく、多くの責任者がやってくることだ。
私は新人スタッフというよりは、社長である恭介君の妻として紹介されるのは避けられない。
毅然とした態度で対応しなくちゃと、ちょっとしたプレッシャーなのである。
「はぁ。緊張する」
「大丈夫だ。お喋り好きな母さんが、感心するほどひとりで話し通すだろうから」
コンコンと軽いノックと共に、あっさりとした声音が戸口から発せられた。
室内に入ってきた恭介君へと、洋服を手にしたまま歩み寄る。
「どっちが良いと思う?」
真剣に問いかけると、恭介君は顎に手を当てて考え込む。