妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~


「困ったなぁ。どっちも可愛い」

「真面目に答えてよ!」

「ひどいな。俺は至って真面目だ」


冗談ばかりと膨れっ面になるも彼の表情が崩れることなく、本気で言っているのかと分かったら、それはそれで気恥ずかしくて堪らない。

そっぽを向いて手にしていた洋服たちを片付け始めると、恭介君が「あぁ」と懐かしげに呟きながら室内を進んでいった。

立ち止まったのは、彼から譲ってもらったあの電子ピアノの前だった。


「懐かしいでしょ?」


この問いかけにも彼は素直に「うん」と頷き、長椅子に腰かけて鍵盤蓋へと手を伸ばす。


「綺麗に使ってくれていたんだな」

「もちろんだよ。……ねぇ恭介君、何か弾いて!」


隣に腰掛けてお願いすると、彼はちょっぴり困った顔をしつつ、鍵盤へ視線を向ける。


「俺、中学以来弾いてないぞ。下手でも笑うなよ」


ゆったりとした長い指先で奏で始めたのは、久しぶりの再会時に私が弾いていた曲だった。目を輝かせた私を恭介君がちらりと見て、微笑みかけてくる。

< 126 / 196 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop