妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
「困ったなぁ。どっちも可愛い」
「真面目に答えてよ!」
「ひどいな。俺は至って真面目だ」
冗談ばかりと膨れっ面になるも彼の表情が崩れることなく、本気で言っているのかと分かったら、それはそれで気恥ずかしくて堪らない。
そっぽを向いて手にしていた洋服たちを片付け始めると、恭介君が「あぁ」と懐かしげに呟きながら室内を進んでいった。
立ち止まったのは、彼から譲ってもらったあの電子ピアノの前だった。
「懐かしいでしょ?」
この問いかけにも彼は素直に「うん」と頷き、長椅子に腰かけて鍵盤蓋へと手を伸ばす。
「綺麗に使ってくれていたんだな」
「もちろんだよ。……ねぇ恭介君、何か弾いて!」
隣に腰掛けてお願いすると、彼はちょっぴり困った顔をしつつ、鍵盤へ視線を向ける。
「俺、中学以来弾いてないぞ。下手でも笑うなよ」
ゆったりとした長い指先で奏で始めたのは、久しぶりの再会時に私が弾いていた曲だった。目を輝かせた私を恭介君がちらりと見て、微笑みかけてくる。