妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~


「どうしたの?」


タイミングよくに戻ってきた晶子先生に声をかけられ、俯いていた顔を勢いよくあげる。

今聞いたことを話そうと思ったが、おさまらぬ動揺が口を閉じさせた。

近づいてきた晶子先生へと「お電話です」とだけ微笑んで子機を手渡すと、そのままバッグを掴み取り、小走りで音楽スクールを後にした。



結局、その日のレッスンは散々だった。

あまり集中できず石田教授にも厳しく叱られ、余計落ち込む。

自宅に帰るなり、ゴロンとソファーに横たわる。

気だるげにスマホを手に取り、先程届いたばかりの恭介君のメッセージを読み直した。

『今日は遅くなる』

その一文に「今日もだよ」と訂正を入れる。

ここ最近、前にも増して仕事が忙しいらしい。

数時間前までの自分なら大変だなとか頑張ってねなど、労わりや応援の言葉が真っ先に出てきたというのに、今の私は羽柴コーポレーションを吸収するから忙しかったのかと不満ばかりが募っていく。

帰宅時の電車の中で兄の酔った姿を思い出し、あの時見えなかったものがやっと理解できた気がした。

経営悪化に吸収合併。

消化しきれない思いが沢山あって、兄は荒れていたのではないだろうか。


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