妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
ずばり言われて、思わず空を仰ぎ見た。ただの噂ではないことが、声音だけで伝わってくる。
「うん」と答えると、昨日から抱いていたもやもやとした思いが溢れ出しそうになり、私は唇を引き結ぶ。
「話が後手に回ってしまってすまない。今日はこれから音楽スクールでの仕事だったよな」
「そうだったんだけど、私がすごい気にしていたら、晶子先生が行って来て良いよって言ってくれて」
「それなら、悪いがアオトまで来てくれないか? 俺も話したいことがあるんだ」
話したいこと。そのひと言が、嫌な予感を連れてくる。
何を言われるのかと思うと怖くて足が竦むけれど、ここまで来て逃げるわけにはいかない。
「わかった。今から行くね」
短くそう告げたのち通話を切り、勇気と共に前へと進みだす。
心ここに在らずの状態で電車を乗り継ぎ、二十分ほどで目的の駅に到着する。
駅を出て通りの先へと視線を上昇させるると、その姿はすぐに視界に入ってくる。
私の位置からは手前に羽柴コーポレーション、その奥にアオト株式会社のビルがあり、微妙に重なり合っている。
それもあってか、高くそびえ立つツインタワーがいつもよりも威圧的に見えた。