妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
ずんずん進んでいたけれど、ふいに羽柴コーポレーションの前で足が止まる。
ここに来るのは、就職の面接を受けに訪れたあの日以来だ。
それ自体はあまりいい思い出ではないけれど、子供の頃、父に連れられて何度かここを通った記憶が蘇ってきて、懐かしさで胸がいっぱいになっていく。
きっと、お父さんの望んでいた未来はこんな形ではなかったはずだ。
「ごめんね」
込み上げてきた思いのままにぽつり呟いた瞬間、「おい!」と荒々しい声が響き渡った。
それは知っている声だった。恐る恐る振り返り、鬼の形相でこちらに向かってくる叔父の姿に身を強張らせる。
「これまで面倒見てやったのに、恩を仇で返しやがって」
目の前まで一気にやってきた叔父に乱暴に肩を捕まれた。
突然向き合わされた事態と、叔父の怒りの剣幕に気圧されて、頭の中が真っ白になり何も言い返すことができない。
「最初からそのつもりだったのか。俺を陥れるために、結婚相手に青砥を選んだんだろ!?」
肩を大きく揺さぶられながら、私は必死に首を横にふる。
叔父さんは口角を引きつらせた後、なにも言えずにいる私に痺れを切らしたようにちっと舌打ちをした。