妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
平然とした返答に私は苦笑いする。
確かに私が圧倒されたのは建物ではなく、恭介君の方だと気付かされたからだ。
受付嬢だけでなく、警備員、すれ違った社員たちのすべての眼差しから、恭介君が一目置かれているのがしっかりと伝わってきて、私まで誇らしい気持ちになる。
もちろん彼自身が優秀で、人を惹きつけるだけの魅力を持っているのは言うまでもない。
そして私にとっても彼は特別な存在だ。
ここに来るまで あんなに不安だったというのに、言葉はなくても恭介君の隣にいるだけで心が落ちついていく。
四十階で降りて、ふかふかの絨毯の上を進んでいくと、デスクでパソコンに向かっていた秘書らしき女性が立ち上がり、恭介君に向かって恭しくお辞儀をした。
「彼女にお茶を」
すぐさま彼に「気を使わなくていいのに」と囁きかけたけれど、私の言葉を流すように三十代前半くらいの秘書の女性が「かしこまりました」と言葉を被せ、微笑みかけてきた。
彼女の感じの良さにはにかんで笑った私の肩を恭介君がぽんぽんと叩いて、「こっちだ」と通路その先へと誘導する。
突き当たりの厚みのあるドアを押し開けて、恭介君が私を振り返り見た。
「どうぞ」
「……失礼します」