妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
「ひと言だけも良いから、教えてくれたらよかったのに」
「それはすまないと思ってる。もちろん隠そうとしたわけじゃない。見通しが立ったら話すつもりだったが、タイミングを掴むのが難しかった」
「それでも!」と声を荒げたが、思いとどまるように口を閉じた。
彼のことだ。私のピアノの練習の邪魔をしたくないからと、後回しにしていたのだろう。
多少のすれ違いはあった。でもこうして今、向き合えているのだから、取り乱さず冷静に話し合うべきだろう。
胸の内で燻る不安と戦いながら、声を震わせ問いかける。
「新しい社長には恭介君が就く予定なの? 私と結婚する時、……プロポーズをしたあの時点でもう、こうなることを想定していたってこと?」
彼は顔色を変えず、私をじっと見つめ返してくる。
その真っ直ぐな眼差しと、なかなか返答がもらえず生まれた間に耐えられなくなり、視線を膝の上に落とす。
「まったく考えてなかったと言ったら嘘になる」
ちくりと胸に痛みが差し込み、そこからじわりと悲しみが広がっていく。
「今回の件に関して、私と結婚したことでプラスに働いたことはあった?」
「あぁ。羽柴内部での協力者が増えた」
どこまでも素直な彼の告白に、微笑みさえ浮かぶ。