妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
頭を下げたままでいると、彼がソファーから立ち上がった気配を感じ取る。
大きな手が私の肩にそっと触れた。
「顔を上げて」と優しく響いた声へと縋るように視線を向ける。
「美羽のお願いならなんでも聞いてあげたいが、悪いがその期待だけには応えられない」
困り顔で彼から告げられた言葉に、愕然とする。
戸惑いが大きくて言葉が出てこないでいると、恭介君は私に背を向け歩き出した。
そのまま彼がどこかに行ってしまいそうで咄嗟に手を伸ばすも、彼が進んだ先はドアではなくデスクだった。
デスクの前で踵を返して、彼は私へと体を向ける。
「俺の席はここだけだ」
宣言と同時に、机上に置かれていたネームプレートを私が見える位置へと移動させた。
そこに記されていた役職名を黙読し、目を大きくさせる。
青砥恭介という彼の名前の上部に、副社長という肩書きが添えられていた。
思わず「副社長」と読み上げた瞬間、ドアが控えめにノックされた。
入室を許可した恭介君の声に従って、秘書がコーヒーの香りと共に部屋に入ってくる。
確かに副社長就任の件は聞いていた。
そして部屋を見回して気づいた点により、少しずつ彼の言葉が真実味を帯びていく。