妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
「紹介する。彼が羽柴コーポレーションの新社長だ」
弾かれたようにソファーから立ち上がる。
今の言葉は本当かと確認するように恭介君へと顔を向けると、すぐに彼が頷き返してくれた。
戸惑いから抜け出せないまま、私は一歩踏み出して、小さく呼びかけた。
「……お兄ちゃん」
私の目の前で兄が足を止めると、兄の傍まで恭介君も進み出てくる。
並んだふたりを宿した視界が涙で滲んでいった。
「叔父さんが経営者の器じゃないのも、このままじゃ羽柴がダメになるってことも分かっていたのに、変えられなかった。こんな形になってしまってごめん」
兄の後悔の言葉が切なく胸に響き、私は大きく首を横にふる。
「お兄ちゃんのせいじゃない」
きっと兄なら父の会社を守りたくてこれまで必死になってきたと思う。
だからこそ、己の無力さに打ちひしがれた時もあったはずだ。
そう考えて頭にちらついたのは、やっぱり兄が酔っていたあの姿だった。
一緒に戦うことすらできなかった私が、どうして兄を責められようか。
「父さんが残したあの会社を俺がしっかり立て直す。それがみんなへの恩返しになると思うから」