妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
それは間違いないけれど、生活環境が一変したことや夢を諦め進路も変更したため、自分の心に大きな負担がかかっていたことも事実だった。
塞ぎ込んでいたある日、マンションに電子ピアノが届けられた。
一目見ただけで、それが恭介君の部屋に昔から置かれていた物だとわかった。
幼い頃、亡くなった祖母から贈られた物で、彼自身もとても大切にしていたというのに、手紙に書かれていた「使わないから、やる」という素っ気ないひと言に涙がしばらく止まらなかった。
私は、電子ピアノだけでなく恭介君の思いにも支えられてきた。
引き受けることが彼に感謝の気持ちを返すことにもなるかもと考えても、自信のなさが邪魔をして「YES」と返事をするのをどうしても躊躇ってしまう。
再びティーカップを傾けほっと息をついてから、恭介君は静かにそれをソーサーに戻し、私へと顔を向ける。
「スタッフと言っていたけれど、できれば母のアシスタントとして美羽にはついてもらいたいと思っている」
「晶子先生のアシスタント?」
「あぁ。ずっと母の手伝いをするのが夢だったろ?」
彼の問いかけに目を大きくし、「恭介君」と声を震わせ呟く。