妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~

これから本社に戻ると聞いていたし、忙しい彼の手を煩わせるのも申し訳なく思うも、恭介君の固い意志を崩すのは難しかった。

恭介君自ら兄に電話して自分が車で送って行くことを告げたり、向かうべき店の場所を直接確認したりと、私が出るまでもなく話は進められていった。

申し訳なく思っているのも本音だけれど、久しぶりに会った恭介君とまだ少しの間話ができるのは素直に嬉しい。

恭介君の横顔を見つめてわずかに微笑みを浮かべてから、レッスン室を出る時に晶子先生から渡されたアザレア音楽スクールのパンフレットへ視線を落とした。

ピアノ、ヴァイオリン、フルート、声楽等々、いくつかの教室が設けられている。

もちろんじっくり目を通すのはピアノ教室に関するページだ。

ピアノに向かっている幼い女の子の笑顔はとても楽しそうで、隣に立つ晶子先生の表情も負けずに輝いている。

その光景に子供の頃の楽しかった記憶が蘇ると、先ほどくれた恭介君の言葉がじわりと胸を熱くする。

『夢を取り戻したら良い』

元々は、ピアノの先生になりたかったから音大を目指していた。

けれど両親が亡くなり、副社長だった叔父が社長になったことで、私たち兄妹はいつか父の会社を取り戻したいと考えるようになり、私は音大から経営学部のある大学へと進路を変えたのだ。

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