妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
恭介君に応えたい自分と、兄に対して申し訳なく思う自分が心の中でせめぎあっている。
ちらりと恭介君の横顔を盗み見た時、車がゆっくりと路肩に停まった。
「……もう着いちゃった」
窓の外には、海外の要人も宿泊する高級ホテル。その最上階に叔父お気に入りの有名日本料理店があり、そこがこれから食事をする場所だ。
「お兄ちゃん、来ているかな」
行きたくない。
車から降りたくなくて、のろのろとバッグからスマホを取り出す。
しかし届いていた「一階ロビーにいる」というメッセージで、既に兄はホテルに到着していることを知る。
それでも、一分でも一秒でも長く車に留まりたくてほかの理由を探す。
「……えぇと、約束は来週の金曜日だったよね? 仕事が終わったら連絡した方がいい?」
「あぁ。それでいい」
「うん。分かった。……今日は久し振りに会えて嬉しかった。忙しいのに送ってくれてありがとう。……また来週」
会話を繋げられなくて、諦めの気持ちで別れの言葉を口にする。
微笑みかけてから、車を降りようとドアノブへと手をかけた時、きゅっと腕を掴まれた。
驚き振り返ると、恭介君の真剣な眼差しとぶつかり、とくりと鼓動が跳ねた。