妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
「このまま俺の元に留めておきたい」
「……え?」
「どうしても美羽を行かせたくない。行かなきゃだめか?」
拗ねたような口調で告げられた想いに、呼吸を忘れる。
頭の中が真っ白になり、言葉を返すことすらままならない。加熱する頬の熱や嬉しさや恥ずかしさや戸惑いなどの様々な感情にただただ翻弄される。
目を合わせて五秒が経ち、恭介君が自嘲気味な笑みを口元に湛えて、視線を自分の手元へ落とした。
「すまない。ただの俺の我儘だ。気にしないでくれ」
謝罪と共に、彼が私の腕を離した。それを視界に捕えた瞬間、自然と体が動いた。
気がつけば、私は彼の手を両手でしっかりと掴んでいた。
なんでそんなことをしてしまったのか、自分でもよく分からない。
分かるのは、自分の手で包み込んだ彼の手の大きさと温かさだけ。
「……ほ、本当はね、私もすごく気が進まないの。このまま恭介君と話をしていた方が何倍も楽しいけど、約束を破るわけにはいかないから行ってくるね。来週の金曜日を楽しみにしてる」
わずかに目を泳がせたあと、手から力を抜いて恭介君の手を離した。急いで車を降りて、そのまま背を向け歩き出す。