妻恋婚~御曹司は愛する手段を選ばない~
彼から遠ざかっても、手の中の余韻がなかなか消えない。だから頬の熱も引かないし、鼓動もひどく乱れたまま。
恭介君の格好良さは昔と変わらない。
そう考えるも、五歩も進まぬうちに頭の中で否定する。
彼は昔よりも格好良くなっている。
魅力が増したというか、色っぽくなったというべきか、……以前はここまで恭介君を男として意識しそうになることはなかったのだ。
火照った頬を手のひらで触れながらホテルへと足を踏み入れてすぐ、「美羽!」と呼び掛けられた。立ち止まった私へと、兄が小走りで近づいてくる。
兄の身長は百八十センチと、恭介君よりちょっと小さいくらい。
栗色の髪、くっきり二重の大きな目。小学校の頃、上級生の女子に可愛らしいと好評だった笑うと出るえくぼは今も健在だ。
父親譲りの人当たりの良い笑顔を浮かべている兄を見て、申し訳ない気持ちが急速にこみ上げてきた。
「待たせちゃって、ごめんね。それに食事に巻き込んだことも」
「俺も今来たばかりだし、それに関しては謝らなくていいって」
「叔父さん達はまだだよね?」
「いや。もう店に居ると思う。俺たちに対して時間にルーズだったくせに、いったい、何を言い出すことやら」