一級建築士の萌える囁き~ツインソウルはお前だけ~
目的の駅についてからは、休日出勤の会社の人間にバッタリと出会う可能性を考えて、海音は萌音への必要以上の身体的接触を控えた。

本通りからひとつ奥まった通り沿いに、萌音のマンションはある。

本社を通りすぎ、あと少しで萌音のマンション、というところで自転車に乗った男が、萌音と海音の間を通りすぎようと乱暴に近づいてきていることに気がついた。

「危ない!」

萌音を押し退けて自転車を避けた拍子に、段差につまづいて海音は転んでしまった。

近づいてくる段階から、ガラの悪いその男は明らかに萌音と海音のことを敵視しているように見えた。

公道で並んで歩くカップルに恨みでもあったのだろう。

自分の行為で海音が転んだ様子を見届けるやいなや、満足げに笑いながら、謝罪はおろか止まりもせずに通り過ぎていった。

海音を心配していた萌音が、正義感を出して加害者を追いかけようとするのが見えた。

海音は足の痛みに耐えながらも、萌音が犯罪に巻き込まれるのを恐れて必死で追うのを止めた。

その真剣な思いが伝わったのか、萌音は追うのを思い留まってくれた。

海音は、自分が右足を捻挫してしまったことにはすぐに気が付いていた。

捻挫した直後はかなり痛いが、この右足の捻挫は高等部からの癖でもあり、数時間すれば問題なく歩けるようになる類いのものだ。

何度も捻挫を繰り返すうちに、海音は独自のテーピングやアイシング法を編み出して、翌日には普通に歩けるようになるレベルの処置をマスターしていた。

このときも痛みはあったもののいつもと大差のないレベルの怪我であり、本当は、萌音を心配させないためにどうやってこの局面を乗り切ろうかと考えて顔をしかめていただけだった。

しかし、怪我もしてみるものである。

それにより、幸運の女神が海音に微笑んだのだ・・・。

いや、海音が痛みに顔をしかめていると勘違いをした優しい萌音が、海音に救いの手を差しのべるというあり得ないシチュエーションに、海音が便乗しただけともいう。
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